ショートショート

創作詩15:子供の手

創作詩「子供の手」のサムネイル画像(発達障害児の手は白魚の様)

はじめに

本投稿では、ショートショート 第21作 「創作詩 ”子供の手” 」を発表します。

 今回は息子の手にまつわる思い出を詩に紡ぎました。息子の「大きな手」を見ると家族団欒の楽しかった思い出もたくさん蘇ってきますが、ときどき切なく虚しく悲しくなることがあります。私がどうかしているのかもしれません。


《創作ショートショートのテーマ》 

 辛い毎日から逃れるために、思考と感情のバランス調整の一環として詩や掌編小説(ショートショート)の創作を始めました。

「発達障害児の世界」と「健常の大人の世界」とが不連続に交錯融合する「奇妙で切ない不条理の世界」が主題です。具体的には、発達障害者・精神障害者・生きづらさを感じている人々・世の中の偏見や差別に苦しんでいる人々が登場する物語です。

 携帯電話の画面で詩をご覧の方は、携帯電話を横向きにしていただくと詩の各文が改行しませんので、より読みやすくなります。

本編:子供の手


わが子の手は大きく、指が長い、身長の割に驚くほど!

・生まれたときからそうだった。
・看護師達は異口同音にそう言った。
・あらためて子の手を観ると私もそう思った。
・子を自宅に持ち帰ると猫は子の指先からクンクンした。
・子は白魚のような美しい手の持ち主として地上に現れたのだ。

・保育園での子の力は尋常ではなかった。
・子は鉄棒やジャングルジムが異様に得意だった。
・子は納得するまで遊具から手を離そうとしなかった。
・先生から「この子の握力はお猿さん並み!」と言われた。
・天狗になった子はよじ登った高木から落ちて救急車で運ばれた。

・小学生になると子はピアノを習い始めた。
・先生からも「指がとても長いね」と言われた。
・子の指はしなやかにして瞬く間にメキメキ上達した。
・子はどういうわけか音を耳コピすることができなかった。
・子は楽譜を見ないと指で鍵盤を操作することができなかった。

・7歳の子の手は器用であった。
・初めての習字作品がいきなり入選した。
・子の文字は印刷のごとく正確なゴジック体だった。
・子は5センチ四方の方眼紙に細密画を描くことができた。
・子の才能は7歳をピークに雪崩のごとく急速に衰えていった。

・ジェイコブズが書いた、猿の手1
・ジャコメッティが鋳造した、銅の手2
・スーチンが描いた、イディオットの手3
・ディランが歌う、銃と剣を持った幼子の手4
・ゴルトベルク変奏曲を奏でる、グールドの手5

わが子の手に偉人たちと同じ悲しみを覚えるのはなぜだろうか?

おわり

脚注1: 作家のW ・W・ジェイコブズ(William Wymark Jacobs)の小説「猿の手」に登場する手

脚注2: 彫刻家のアルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)が作成したブロンズ像の「手」で表現された細長い指

彫刻家のアルベルト・ジャコメッティの作品「手」

脚注3: 画家のシャイム・スーティン(Chaïm Soutine)の油絵 ”イディオット” に描かれた少年の大きな手

画家のシャイム・スーティンの油絵”イディオット”

脚注4: 歌手のボブ・ディラン(Bob Dylan)が作詞作曲した「はげしい雨が降る」の一節。2016年のノーベル文学賞の授賞式で、欠席したディランに代わりパティ・スミスがこの作品を熱唱した。

単行本「BOB DYLAN LYRICS 1961-1973」のp98-99(歌手のボブ・ディランが作詞作曲した「はげしい雨が降る」の一節)
引用元:単行本「BOB DYLAN LYRICS 1961-1973」のp98-99

脚注5: ピアニストのグレン・グールド(Glenn Herbert Gould)の大きな手

引用元:グレン・グールドのWikipedia

編集後記

●うちわに書いた落書き
 息子はお絵かき帳、ザラ半紙、方眼紙、チラシの裏、うちわ、ティッシュの箱、本、壁、柱など、ここかしこといろいろな落書きをしました。下記のとおり、うちわに書かれた「きれいにバランスよく並んだ文字」をご覧ください。これらは印刷文字やイラストの模写ではなく、彼の画風です。

息子が落書きしたうちわ(涙で絵書いた鼠達 雪舟)

●5×3センチ四方ほどの方眼紙の切れ端に描いた怪獣
 彼は方眼紙を5x3cmのサイズに切り取って、怪獣のイラストをよく描いていました。消しゴムを使うことはなく、鉛筆の一発描きです。
 下記の絵はたぶん切手の構図を参考にして(右上の52の数字は切手の価格部分を模倣?)、太陽と怪獣をアレンジしたデザインだと思います。

息子が5x3cmの方眼紙に描いた怪獣の絵(太陽と怪獣と価格)

●ピアノ演奏会に出場した息子
 通常は一生懸命に練習すると演奏手順を体で覚えてしまうので、演奏会では楽譜を必要としない子供が多い中、うちの子だけ楽譜を見ながら演奏しました。

写真画像「息子のピアノ演奏会」(楽譜を見ながら演奏する息子)

●旧約聖書に記された「手の長い者」ではない!
 旧約聖書のレビ記(21.21-22)には「手足が短すぎたり長すぎたりしている者」は神が聖別した「身に欠陥のある者」と記されています。これはおそらく今でいう小人症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)、先天奇形、病気による変形など不自由をともなう身体疾患を指すものだと思われます。本詩では、そのような意図はありません。

参考情報

●【まとめ記事】その他のショートショート(詩または掌編小説)

●【まとめ記事】マメタ家の紹介と近況報告

●【まとめ記事】発達障害者(知的障害者を含む)の学歴とキャリアの成功事例

●【投稿記事】創作詩:発達遺伝の妙(発達異常は形を変えて遺伝!)2024年9月16日 投稿

以上

2024年9月27日

香月 融