家族へのキャリア支援

「子供が発達障害であること」を親は職場にカミングアウトするべきか?

⭐️ 記事ボリュームは11,550文字です。長文ですので、好きな項目から読んでください。お時間のない方は、冒頭の「はじめに」のチャプター(要約)だけを読んでください。

はじめに

 サラリーマンとして会社勤めをしながら、発達障害の我が子をケアすることはかなりハードです。そんなとき、会社での働き方や勤務日程調整に関して職場の理解や協力を得ることができれば、実務的にも精神的にも随分と救われます。

 実際、我が子の年齢や発達障害の程度によりますが、幼稚園・小中学校・特別支援学校・病院への送り迎え、病気や怪我などの緊急事態や癇癪などトラブル対応に伴い、職場に対して突発的な遅刻・早退・欠勤をせざるを得ないときがありますよね。

 もちろん、就業規則(有給休暇制度など)に基づいて対応することになりますが、現実問題として急な欠勤はやむなく職場に迷惑をかけてしまうことがあります。
 そのようなときは、職場の同僚に代行してもらったり、所定の作業日程をずらしてもらうなどの対応が不可欠です。

 これが数ヶ月に1回程度であれば「お互い様」で終わるところですが、このような状況が頻繁にあると職場の同僚や上司・部下との信頼関係を築くことが難しく、人事査定にも悪影響を及ぼす可能性があります。

 その解決策として、職場の上司・同僚または人事部・総務部または社長に発達障害者家族の家庭事情をカミングアウトする人が増えています。
 特にこの数年は社会全体に発達障害への理解が進んだという背景によって、一定の範囲内ではありますが、職場の関係者に発達障害者家族であることを告知するハードルが下がっているのかもしれません。
 実際、発達障害に対して理解のある職場では、管理職や人事部などが発達障害者家族の社員をサポートできる体制づくりに取り組んでいる事例もあります。

 そうは言っても、当事者にとっては発達障害者家族であることをカミングアウトすることはかなり勇気がいることですし、プライバシーをどこまで情報開示するかは悩ましい問題です。

 本記事では、発達障害児の保護者が職場に発達障害者家族の実情をカミングアウトする上で注意するべき点を解説します。

 
本記事の【結論・要約】は次のとおりです。

● 発達障害の我が子をケアしながら会社勤めをすることは保護者にとって体力的にも精神的にも非常にハードですが、突発的な遅刻・早退・欠勤のときに職場の協力を得ることができればとても助かります。そのためには、まずは職場の上司・部下・同僚に発達障害家族の家庭事情をカミングアウトすることが有効な解決策の一つです。

● 職場関係者に発達障害者家族の家庭事情を理解してもらうことができれば、突発的な遅刻・早退・欠勤をしたときに職場の同僚に代行やサポートをしてもらいやすくなります。その結果、職場の人間関係の悪化が防止できるので、本人の職場ストレスも軽減できます。さらに、人事部にもカミングアウトしておけば、年末調整の障害者控除の申告や働き方・人事評価査定においても配慮してもらえる場合があります。

● カミングアウトすると決意したとき、どのタイミングで誰にどの程度まで家庭事情を公表するかは悩ましいことですが、職場環境や仕事内容に応じてしっかりと手順を踏むことが重要です。いきなり最初から上司に家庭事情の詳細や要望をお話しすることはおすすめしません。

● 上司に発達障害者家族の家庭事情を理解してもらえないときは、2つの解決法があります。一つは、上司の上長または会社の上層部に相談することです(中小企業であれば社長に直談判)。もう一つは、今の職場に見切りをつけて、社内での異動・転勤・転職を検討することです。

● 在宅ワークであれば、職場への通勤がないので遅刻・早退・欠勤などの問題は起こりません。仕事と家庭とのワークライフバランスを自己管理して調整できます。また、通勤時間が不要なので、その分だけ障害児のケアに時間を使うことができます。ただし、それゆえに仕事の成果が評価対象となるため、平均レベル以上の実務能力と自己管理能力が必要です。

そもそも、どうして家族の発達障害を職場にカミングアウトすることが難しいのか?

 上述のとおり、発達障害の我が子の保護者は自らの家庭事情によって職場に迷惑をかけてしまうことに対してとても心苦しいと感じています。
 特に、障害児のケアやトラブル対応のためにやむなく突発的な遅刻・早退・欠勤をせざるを得ない場合に同僚や上司に仕事を代理対応してもらったときなどは、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 その一方で、職場の同僚から「自己管理ができない人」あるいは「自分勝手な人」だと思われているのではないかという不安があります。
 それゆえ、発達障害者家族の家庭事情を職場の関係者に公表して、なんとか理解を得たいと考えることは自然なことです。ところが、なかなか公表することができないのが現実です。実際、私自身もそうでした。その理由は次のとおりです。


発達障害者家族の家庭事情を上司や同僚に理解してもらえるかどうか不安である(例:職場関係者と信頼関係ができていない段階)。

人事査定や給与に悪影響があるかもしれない。

今の職場・職種・役職を外されるかもしれない。

社内的に十分な成果や実務能力を発揮していない段階で、上司や同僚に発達障害者家族の家庭事情に配慮を求めることはおこがましい。

仮に職場の上司や一部の同僚などに限定して告知した場合、その社員から理解を得られたとしても、事情を知らない他社員から「待遇面で特別扱いされている」と思われたくない。

個人のプライバシーにかかることは言いたくない。

同情されたくない。


 上記①のケースは、職場での勤続年数が浅かったり上司がビジネスライクでクールな性格の人物であるなど職場の社員との人間関係が十分に構築されていない場合に起こり得ます。

 上記②③④のケースでは、会社の人事制度が成果主義である場合や能力主義の社風が強い傾向があったり、上司の裁量権(人事権も含む)が大きい職場の場合に起こり得ます。
 つまり、本人の能力や仕事の成果への評価が公平になされないかもしれないという不安が背景にあります。

 上記⑤のケースでは、「発達障害者家族の家庭事情を告知した社員とそうでない社員との間で人間関係のこじれが起こるのではないか?」という不安が告知を躊躇する原因です。これは、職場全体の人間関係があまりよくなかったり、派閥やお局さんがいるような職場にありがちです。

 上記⑥のケースは、本人の考え方や性格に因るものですが、保守的な県民性の地域では意外と多いです。要するに、「世間体を気にする」ということですが、発達障害者家族の当事者自身に発達障害への偏見がある場合もあります。

マメタ父さん
マメタ父さん
誤解を恐れずに踏み込んで言うと、我が子が発達障害であることに対して「恥ずかしい」という感情が本人の無意識の中にある場合です。あるいは、本人が我が子の発達障害をしっかりと受容できていない場合にも起こり得ます。

 最後に、上記⑦のケースは非常にセンシティブです。一見、「同情されたくない」と感じる人はプライドの高い人と思われがちですが、必ずしもそうではありません。むしろ、多くの発達障害者家族のサラリーマンに共通した感覚と言ってもいいでしょう。

 要するに、「可哀想な人と思われたくない」という感情です。カミングアウトした同僚や上司から深く同情されすぎると、「気持ちをわかってもらえた嬉しさ」と同時に「自分自身を惨めに感じてしまう」という複雑な心境になることがあります。

マメタ父さん
マメタ父さん
仕事に対して意欲的で自己効力感が高く楽観的な社員は「同情されたくない!」「なんとしても頑張るぞ!」とついつい無理してしまうことがありますが、下手をすると精神的に潰れてしまう危険性があります。私自身の反省を込めて、注意を促したいですね。

カミングアウトのメリット

 発達障害の我が子のケアのためにやむ無く突発的な遅刻・早退・欠勤することがありますが、現場では急に代行対応が必要となるため職場の関係者に迷惑をかけてしまいます。
 そこで、発達障害者家族の家庭事情を職場の関係者にカミングアウトして職場に対して寛容的且つ協力的な対応を求めたいと考えることは自然なことです。

 少なくとも、感情的な嫌悪感をもたれる可能性は少なるなる。実際、会社や職場に発達障害への理解がある場合、発達障害者家族であることを会社や職場の関係者にカミングアウトすることによって次のようなメリットがあります。


職場関係者へのカミングアウトによって、突発的な遅刻・早退・欠勤をしたときに、職場の同僚に代行やサポートをしてもらいやすくなる

上記①に関連して、少なくとも感情的な嫌悪感をもたれる可能性は少なるなるので、人間関係の悪化を防止できる。

上記①に関連して、発達障害者家族である本人の職場ストレスが軽減される。

総務担当者(勤労部や人事部を含む)への告知によって、年末調整の障害者控除(家族が控除対象者である場合)ができる。

上記④に関連して、人事部との話し合いにより、契約社員・ジョブ型雇用・フレックスタイム制度など多種多様な働き方の融通を利かせてもらえることもある。

 まず、上記①のケースの具体例として、突発的な遅刻・早退・欠勤に対応する方法として、障害者家族の社員に1名のアシスタント付けてもらったり、組織横断的なチーム編成をして臨機応変なリカバリーをしてもらえることがあります。

 次に、上記②③は良好な人間関係の構築に役立ちます。結果的に、実務上の摩擦やトラブルも予防に繋がりますので、カミングアウトのメリットとしては最も効果的です。

マメタ父さん
マメタ父さん
ぶっちゃけ、組織がうまく作動するには、人間関係が全てと言ってもいいくらいです。特に、チームプレーを重視する社風の職場では濃厚なギブアンドテイクの関係性は重要です。

 さて、④は”あるある”です。およそ11月くらいに全社員が年末調整の控除の書類を総務部に提出しますが、その記述項目の中で障害者控除を申請することができます。
 これは、生計が同一の家族が障害者である場合、所得税の負担を軽くすることができる制度です。控除額は障害の程度に応じて27万円から最大75万円になりますから、サラリーマンとしては無視できません。

 最後に、⑤は裁量権が大きい特定職種に限定される場合が多いです。例えば、営業職、プログラマー、IT関連のクリエーター、広報、研究開発職などです。
 ただし、働き方の自由度は大きいですが、相応の成果を求めれらます。ですから、自己管理能力に優れ、成果主義を歓迎する社員には適しています。

「家庭の事情で遅刻・早退・欠勤がやむなく生じる社員に優しい協力的な職場」のイラスト画像

カミングアウトのデメリット

 発達障害者家族であることをカミングアウトすること自体に特段のデメリットがあるわけではありませんが、結果的に悪影響が生じることがあります。具体的には次のようなケースです。


人事担当や上司に発達障害への理解がなく、発達障害者家族の社員に対して職場での臨機応変な応対が得られないとき、逆に上司への不信感が募り、職場内の人間関係が損なわれる。

職場の上司や一部の同僚などに限定して告知した場合、その社員らから発達障害者家族の社員の遅刻・早退・欠勤せざるを得ない家庭事情への配慮を得られたとしても、事情を知らない他社員からは「なぜ彼はお咎めを受けないのか?」「待遇面で特別扱いされている」と不満が出る。

職場の上司や同僚などから発達障害者家族の社員の遅刻・早退・欠勤せざるを得ない家庭事情への配慮を得られた結果として、それに見合うだけの職務上の成果が求められる(プレッシャーを感じてしまう)。

会社としては本人のために良かれと思って実施した「転勤や職種変更を伴う異動」により、本人のモーティベーションの低下や会社への不信感が生じる。


 上記①は本当に最悪のケースと言っていいでしょう。実際、このパターンは少なくありません。会社規模で相対比較すると、発達障害への理解がない上司や幹部社員は社員数が50人未満の中小企業に多いと思います(もちろん、50人以上の企業でもあり得ます)。それには次のとおり3つの理由があります。


A: 会社の経済基盤が脆弱で、職場の働き方や待遇を改善する余裕がない。
B: 叩き上げのオーナー社長で、労働環境やワークライフバランスに対する意識が低い
C: 障害者雇用の法的義務がなく、それゆえ障害者雇用の経験がない


 上記②の事例は最初のチャプターでも記述しましたが、発達障害者家族の社員が職場の上司や一部の同僚などだけに家庭事情を告知したがゆえに、事情を知らない社員からは「会社が待遇面で特別扱いしている」「突発的に増えた仕事を残りの社員でカバーすることになり現場社員の負担が増えるが、給料が上がるわけではない」などの不満が出る場合です。

 これは、ある程度はどうしようもないことなのですが、実際の職場では非常に多いです。特に、事務職や製造部門など時間管理が厳格で且つ複数の社員が共同作業するような職場で起こりやすい問題です。
 意地悪な先輩や上司がいると、いじめやパワハラに発展することがあります。そこまでならなくても、微妙に疎外されることはよくあります。

「家庭の事情で遅刻・早退・欠勤がある社員に対する職場のパワハラ」のイラスト画像
マメタ父さん
マメタ父さん
私の職場でも同類のことがありました。具体的に申しますと、社員Aさんだけが遅刻・早退・突発的な欠勤が著しく多く、その都度、職場内で協力して仕事をカバーしていました。それを不満に感じる社員やパートさんから上司に苦情が出ていました。ときには、Aさんを露骨に批判することもありました。彼ら彼女らに対して上司は「Aさんの遅刻・早退・欠勤は家庭の事情」とだけ説明していましたが、やがて誰も文句を言わなくなりました。その理由は、「Aさんの子供が通う小学校のママさんルートでAさんの家庭の事情が会社関係社員に知れ渡ったこと」と「Aさんが謙虚で気配りのできる人柄だったこと」です。

 上記③の事例は、会社側の立場から見れば当然のことです。なぜなら、事業経営は経済活動であり、発達障害者家族の社員に対して合理的なサポートを与えることは会社にとってはコストになります。
 ですから、恩返しというわけではありませんが、恩恵を受けた社員はそのコストを相殺して余りある成果を出すか、時短勤務にしてもらうか、歩合給与にしてもらうかのいずれかの選択になります。ちょっと厳しいようにも思えますが、公平性の観点から見てもある程度は止むを得ないと思います。

マメタ父さん
マメタ父さん
上司からのプレッシャーが強すぎると本人が疲弊しますので、その案配については注意が必要です。

 上記④の事例は大企業で時々あることです。人事部から職場の上司を通じて異動の主旨を本人に事前に説明するなどの配慮があるとよいのですが、組織が大きすぎて関係者間でスムーズな意思疎通ができないままに人事異動が命じられてしまうことがあります。

 なお、当然のことながら、通常は職場の社員全員に告知するわけではありませんので、発達障害者家族であることを知らない同僚(告知していない社員)や他部署の社員からは次のような誤解を受ける可能性があります。


自己管理ができない人
空気が読めない人
サボっているのではないか?
特別扱いされているのではないか?


【私の経験】

 私が製薬会社に勤務していたとき、朝9時からの会議に頻繁に遅刻する先輩がいました。ところが、不思議なことに上司が彼を咎めたことは一度もありませんでした。また、職場の同僚たちも彼を批判することもありませんでした。
 その先輩は非常に優秀な社員で、数々の成果を出していましたので、ある意味で特別扱いされていると私は勝手に思い込んでいました。

 あるとき、その先輩と一緒に食事をしているときに、実は子供が発達障害で特別支援学校に毎朝送っていくために会議に遅刻してしまうのだと打ち明けられました。

 ちなみに、会社は10〜16時までをコア勤務時間とするフレックス制だったので、就業規則に違反しているわけではありません。いわば、上司の裁量で容認されているということでした。

マメタ父さん
マメタ父さん
私が勤めていた職場は医薬品の研究開発部門で、基本スタイルとしてチームプレーで複数のプロジェクトを走らせていたので、互いの信頼関係がしっかりできていたことや社風として多少の失敗やミスを容認する雰囲気があったことが良かったと思います。振りあえってみると、自由度の高くて働きやすい職場でした。

会社の誰にカミングアウトするべきか?

 「発達障害者家族の家庭事情を社内の誰に話すべきか」については非常に悩ましいです。当然のことながら、これは非常に繊細なプライバシーにかかわる情報ですから、必ずしも職場の関係者全員にカミングアウトする必要はありません。

 基本的な考え方としては、カミングアウトすることによって発達障害者家族の社員自身が働きやすくなるなどのメリットがある場合に限定すればよいと思います。できれば、ある程度の信頼関係ができていることが望ましいです。とりあえず、最初は必要最小限の関係者に限定することが必須です。具体的は次の4パターンです。


① 職場の関係者
② 人事部・総務部
③ 社長
④ 信頼できる社員友達


 まず、上記①の職場の関係者としては、本人が突発的な遅刻・早退・欠勤によって迷惑をかけてしまう社員が対象になります。
 職場環境や組織編成にもよりますが、まず最初に告知した方がよいと思える関係者としては、直属の上司と部下、切り離すことができない仕事上のパートナー、事業部門の責任者になります。
 ちなみに、仕事の実務上の繋がりがなくても、事業部門の責任者には告知しておくことをおすすめします。
 想定外のトラブルが起こったときの対応働き方や勤務調整について人事部と交渉するときの仲介役として事業部長が助けてくれることがあるからです。

 次に、上記②の人事部・総務部の関係者としては勤労および年末調整などの担当者に告知しておくと勤務時間の調整・障害者控除・医療費控除の際に助けてもらえます。

 上記③の「社長に告知するべきか?」については会社規模、社長の考え方、人柄などによって結論が異なります。

 当然のことながら、従業員数が1000人以上であれば社長への告知は必ずしも必要ないと思います。実際、社長に告知したとしても組織が大きすぎて、社長の権限よりも社内規則・公平性・部署間の力関係が重視されるからです。
 ひとつの目安として、社長が名前と顔を覚えることができる社員の最大数は200人程度と言われていますので、それくらいの会社規模またはそれ以下であればあなたの名前と顔も社長に知られているでしょうから、告知を検討するのも良いでしょう。

 また、社長が現場主義で人情味のある方であれば、思い切って発達障害者家族であることを告知すれば、働き方の面で協力してもらえる可能性はあります。オーナー社長であれば、いわゆる「鶴の一声」で特別待遇を与えてもらえる可能性もあります

 さらに、会社として障害者雇用率の法定基準を満たしているなど障害者雇用に積極的であるのであれば、社風や労働環境としても発達障害への理解が得やすいのではないかと思います。

 最後に、上記④の会社友達ですが、これは最も重要です。同じ部署や職場でなくても構いません。むしろ、利害関係がない方がベターです。
 あなたの人柄をよく理解してくれて且つ信頼できる友人が会社内でいれば、発達障害者家族の事情をそっと話しておくと、精神的な助けになってくれることがあります。ただし、裏切られることもあるので、どこまで話すかは慎重でなければなりません。


【私の経験】

 発達障害者家族である私自身の経験をお話しします。私は息子が療育手いどを取得してから5年間は会社には一切告知していませんでした。その間は権利はあるものの年末調整の障害者控除もしていませんでした。
 3年前から息子が発達障害にともなう二次障害を発症して入退院を繰り返すようになったことから、病院への送り迎え・体調不良のケア・パニック(癇癪)への対応・学校からの脱走・加害などが増えて突発的な早退や欠勤が増えました。さらには、連続して急な有給休暇を申請することも頻繁にありました。
 これ以上、職場や取引先に迷惑をかけることは会社として業務遂行のうえで支障が出ると判断し、まずは直属の上司と社長に家庭事情をカミングアウトしました。
 その年の年末調整の手続きで、総務部の担当者には家庭事情の詳細は説明しないで息子が障害者である旨だけを説明しました(障害の種類が発達障害・知的障害であることは説明していません)。

障害の種類や程度を職場関係者にどこまでカミングアウトするべきか?

 前のチャプターでは、「家庭の事情で遅刻・早退・欠勤などが発生したために会社や職場の関係者に迷惑を頻繁にかけてしまうときは、当事者である上司・部下・同僚および総務・人事担当者に発達障害者家族であることをカミングアウトした方が職場の理解と協力を得やすい」と申しました。

 それでは、発達障害の我が子の状況を職場関係者にどの程度まで詳細にカミングアウトするべきでしょうか?
 答えは「必要最低限に留める」ことが無難ですが、現実はケースバイケースになります。具体的には次の3つの指標を考慮して判断することをおすすめします。


① 職場関係者の負担の程度
② 職場関係者との信頼関係
③ 職場関係者の人柄


 まず、上記①について、発達障害者家族の社員の遅刻・早退・欠勤によって生じる職場関係者への迷惑の程度に応じて、代行負担の程度が決まると思います。
 例えば、当日締め切りの事務仕事(労働時間にして4時間相当)を担当している場合に欠勤すると、他の社員がその事務を代行することになります。代行できる社員が2人の場合、一人当たりの負担は労働時間に換算して2時間と言うことになります。

 このような突発的な遅刻・早退・欠勤が定期的にある場合、他社員に代行協力をしていただくうえで、家庭事情についてそれなりに詳細な説明をした方が理解を得やすいと思います。
 例えば、子供に障害があること、学校や病院への送り迎え、急な体調不良のケアなどある程度の具体例を示して家庭事情を説明した方が良いかもしれません。
 

 なお、障害の種類や程度は必ずしも言う必要はありません。発達障害に触れる程度でOKです。特に、カミングアウトの最初(1回目の告知)は必要最低限の情報のみでOKです。

 もし、カミングアウトした後も、発達障害の特性を理解してもらえる機会があれば、段階的に少しずつ話していくのもいいでしょう。このとき、どの程度まで情報公開するかについては、上記②の信頼関係の程度や上記③の上司・部下・同僚の人柄が大きく影響します。

 特に、ビジネスライクでクールな上司であれば、信頼関係が十分にできていない間は、家庭事情の詳細は言わない方が良いですね。なぜなら、組織における上下関係と利害関係があり、あなたの方が弱い立場であるからです。

 一方、部下や同僚については、人の気持ちがわかる人柄の方で且つ一緒に働いてみて信頼できると直感できるのなら、適切なタイミングで思い切って家庭事情を打ち明けてみてもいいかもしれません。

 最後に最も重要なことを2つお話しします。お世話になったときは、必ず感謝の意を伝えてください。そして、別の仕事の場面で協力や補助をしてあげてください。この2つがないと、そもそも良い人間関係を維持することは難しいです。

カミングアウトする時期はいつが適切か?

 発達障害者家族であることを職場の上司にカミングアウトする場合、どのタイミングが適切でしょうか?

 結論から先に申しますと、勤続年数・人間関係・職場環境によってケースバイケースということになりますが、前のチャプターで申しましたとおり、職場の上司・部下・同僚との人間関係がどれくらい深まっているかに依ります。具体的には次のようなパターンに分類できます。


① 現在の職場での勤続年数が1年以上あり、職場の同僚との人間関係がある程度構築できている。
② 新卒採用や転職等で就労または部署異動した職場での勤続年数が1年以内で、職場の同僚との人間関係が十分に構築できているとは言えない。
③ 新卒採用や転職等で就労または部署異動した職場での勤続期間が6ヶ月以内で見習期間中である。

 
 結局のところ、職場の上司・部下・同僚の人柄を理解したり、信頼関係を築いたりするためには、仕事を通じて互いに触れ合う期間や個人的なことを会話したりする時間(飲み会や社内イベントを含む)が必要ですよね。その目処としては、「だいたい1年くらいかかるかな」というのが私の実感です。

 よって、結論としては、上記①のとおり、1年くらいの職場経験を目処に、上司・部下・同僚の人柄を分かったうえで、信頼できると確信できればカミングアウトしてよいでしょう。
 もし、1年経過しても「彼らと信頼関係が構築できていない場合」あるいは「彼らの人柄が好きになれない場合」はカミングアウトするか否か、仮にカミングアウトするとしてもその告知内容については慎重に熟考した方が良いと思います。

 そうは言っても、上記②③のような状況で実際に信頼関係を築く間も無く、遅刻・早退・欠勤で迷惑をかけることが頻繁にあるときはどうすればよいのでしょうか? その場合は、遅刻・早退・欠勤が自己管理の不手際ではなく家庭事情にある旨をある程度は説明せざるを得ないかもしれません。少なくとも、それなりに納得してもらえるような理由を説明する必要があります。
 そうしないと、「自己管理ができない社員」と職場のみんなから誤解される可能性がありますし、上司による人事評価にも影響するからです。

上司に発達障害者家族の家庭事情を理解してもらえないときはどうするべきか?

 上司に発達障害者家族の家庭事情をほとんど理解してもらえず、突発的な遅刻・早退・欠勤をひどく責められる状況が続くのであれば、さらに上司の上長に当たる管理職またはその職場の事業部長に相談することになります。
 それと同時に人事部長または総務部長(勤労管理の責任者)にも相談すると協力をしてもらえることがあります。

「部下を責める上司」のイラスト画像

 ちなみに、会社が200人以下の中小企業であれば、家庭事情に配慮した働き方の調整について社長に直談判する方が手っ取り早いかもしれません。極論になりますが、オーナー社長の理解を得ることができれば、建前上は一気に解決します。
 ただし、このような手段をとると、職場内の人間関係にしこりを残すこともありますので、その後においては逆に実務上は働きにくくなったりするリスクはあります。

マメタ父さん
マメタ父さん
コツとしては、職場だけでなく社内の関係部署の責任者を味方にすることなのですが、日頃から挨拶や会話(何気ない世間話でOK)を通じて他部署の責任者や経営陣と顔見知りになっているといざと言うときに相談しやすいですね。

どうしても発達障害者家族であることを上司にカミングアウトしたくないときはどうすればよいか?

 どうしても上司にカミングアウトできない理由にもよりますが、多くの場合は上司が自己中心的・強権的・冷徹であるなど信頼できない場合です。もっと踏み込んで言えば、上司を人間的に好きになれない場合です。

 この場合は、前のチャプターに記載したとおり、上司の上長に当たる管理職、その職場の事業部長、人事部長または総務部長、社長(中小企業に限る)のいずれかに相談するしかありません。

 この時点ですでに上司とは関係がよくない状態であるのであれば、思い切って部署の異動を希望するか、転職を検討した方が現実的ではないでしょうか?
 なぜなら発達障害児をケアしながら働くことは体力的にも精神的にもかなりきついことですから、その上に上司との人間関係のストレスが加わると精神的に潰れてしまう可能性があります。

マメタ父さん
マメタ父さん
大企業の文系職(事務職や営業職)の管理者であれば2−3年の期間で転勤や移動がありありますので、嫌いな上司もやがていなくなる可能性が高いですが、それまで2年以上も我慢することはおすすめしません。

在宅ワークへの転職のすすめ

 コロナの影響で在宅ワークをしている方も多いと思います。在宅ワークの場合、上述のような遅刻・早退・欠勤などの問題はありません。
 実際、仕事時間を細切れにして有効活用するなど、家庭と仕事のワークライフバランスを自己管理して調整できます。

 また、通勤時間が不要なので、その分だけ家族のケアに時間を使うことができます。実質的に、働く場所と時間を自由に自己管理できるメリットがあります。

 それゆえ、あなたのお仕事が在宅ワークが可能な職種であれば、「在宅ワークができる部署に異動」あるいは「恒常的に在宅ワークを推奨している会社に転職」をおすすめします。具体的な職種は次のとおりです。


① 個人作業で自己完結できる営業職
② ネット販売(通販)またはIT関連のマーケティング職
③ プログラマー・クリエーター・デザイナー・ライター職
④ 広報
⑤ 内職
⑥ 士業(税理士・社会保険労務士・司法書士)


 在宅ワークの実態としては時間給は少なく、多くの場合は仕事の成果物が評価の対象となりますので、当然のことながら一定レベル以上の実務能力(資格も含む)と自己管理力が求められます。
 特に、管理職の場合はチームをまとめたり、メンバーの進捗を管理したりするためのコミュニケーションのITリテラシーが必須です。

 ちなみに、私自身は34歳のときに医薬品の研究開発職から化粧品の広告マーケティング職へとキャリアチェンジしていますが、コロナ禍の今となっては在宅ワークができる職種にシフトした経験が発達障害児のケアと仕事の両立に大いに役立っています。

マメタ父さん
マメタ父さん
通勤仕事から在宅ワークへの転身を希望する方に向けて、勉強法・資格取得・転職へのロードマップの紹介を別途記事にする予定です。ご期待ください。

「テレワーク」のイラスト画像

参考情報

● 【投稿記事】「発達障害者家族であること」をご近所さんにカミングアウトするべきか?

●【まとめ記事】子育て/家事/仕事の両立

● 【まとめ記事】発達障害者の学歴とキャリアの成功事例

● 【まとめ記事】発達障害者(知的障害者を含む)のご家族の学歴とキャリアの成功事例

以上

2022年5月31日配信・2023年11月4日更新

マメタ父さん