はじめに
本投稿では、ショートショート 第12作 「創作詩 ”方舟” 」を発表します。
本作は家族崩壊を比喩的に表現した詩です。私が出張中、自宅で暴れた息子は警察に収容されましたが、自宅に戻ることはなく隔離病棟に強制入院となりました。
当時、機能不全に陥った家族の姿が私の無意識の記憶から鬼と化して本詩に現れたのかもしれません。
《創作ショートショートのテーマ》
辛い毎日から逃れるために、思考と感情のバランス調整の一環として詩や掌編小説(ショートショート)の創作を始めました。
「発達障害児の世界」と「健常の大人の世界」とが不連続に交錯融合する「奇妙で切ない不条理の世界」が主題です。具体的には、発達障害者・精神障害者・生きづらさを感じている人々・世の中の偏見や差別に苦しんでいる人々が登場する物語です。
携帯電話の画面で詩をご覧の方は、携帯電話を横向きにしていただくと詩の各文が改行しませんので、より読みやすくなります。
本編:方舟
蛇口から、
幽かに漏れ落ちる水の音が気になった。
修理するにはもう時間がなかった。
夕食もほどほどに家を出た。
会社に着くや否や顧客から大クレームだ。
午前3時を過ぎて漸く休憩できた。
私はうとうとしてしまった。
薄ら灯りの中で台所のシンクが見える。
ガタガタと震える蛇口からダダ漏れる泥水*、
突然に蛇口のコックが吹っ飛ぶ、
潮吹きの如く肉汁色の飛沫が天井を突き上げる、
瞬く間に悪魔の噴水ショーと化す。
室内が侵されていくよ!
残してきた家族よ!
目覚めよ!
気が付けよ!
外に出て元栓を閉めよ!
ランダムに四方八方へ突風の如く、
溢れた大量が窓を破く、
もはや土石流の如く、
ドロドロの渦が我が家を飲み込んでいく、
瞬く間にあたりの人影や田畑や森も犯されてゆく。
息子は?
娘は?
妻は?
神は?
方舟は?
あ〜・・・
お〜・・・・・
う〜・・・
お〜・・・・・
あ〜・・・
方舟から、
降り立つ生き物達の中に妻子の姿はなかった。
終わり
*脚注:「泥水」は ”どろみず” と読む。
編集後記
各連の脚韻(〜た。/〜う列/〜よ!/〜く/〜は?/母音〜・)、各連の形状(文末のレイアウトの対称性)にこだわりました。また、詩の連構成においても、前半と後半がシンメトリー(行数=2-555|555-2)になっています。
参考情報
●【まとめ記事】その他のショートショート(詩または掌編小説)
●【まとめ記事】マメタ家の紹介と近況報告
●【まとめ記事】毎日が辛い当事者へ
●【投稿記事】創作詩:信仰が挫折した祈り(絶望と諦念を超えた祈りとは?)2024年8月25日 投稿
以上
2024年9月1日
香月 融