* 記事ボリュームは7,449文字です。お時間がない方は、冒頭のチャプターの「はじめに」だけをお読みください。
はじめに
8月5日に受験した高卒認定(以下、高認という)の試験の結果が9月1日に自宅に郵送されました。結果は合格でした。
受験の内訳は次のとおりです。
・2科目(日本史A・地学)を受験
・7科目(高2年までに取得した単位科目として現代社会・国語・英語・数学・世界史A・生物基礎・化学基礎)を受験免除申請
試験後の本人の自己採点では日本史は余裕で50点以上であったが、地学はギリギリ50点を下回ったため、地学は不合格だろうと予想していたようです。
本人は性格的にクールですから嬉しさを体で表現するタイプではないですが、顔の表情から安堵感が読み取れました。家族みんなで喜びました。
私は出勤先で妻からのメール連絡によって息子の高認合格を知りましたので、その場で本人に祝福メールを送りました。
息子の高認の受験勉強に関して、父親である私が教材の準備からマンツーマンの家庭教師を務めました。結果論ながら、いわゆる個別指導が功を奏しました。
本記事では、息子の1年以上にわたる不登校から高認合格までの紆余曲折ストーリーと発達障害児向けの受験勉強法を紹介します。
本記事の【結論・要約】は次のとおりです。
● 高認試験の受験科目は原則として9科目(国語・英語・数学は必須科目、現代社会・世界史AorB・日本史AorB・地理AorB・政治経済・倫理・生物基礎・化学基礎・地学基礎・物理基礎・科学と人間生活は選択科目)。ただし、出願する時点で、すでに高校で取得した単位科目は受験免除申請できる。
● 高認受験生の中には、高校進学を一時的に諦めていた人、高校中退者、不登校の高校生が一定数いる。ちなみに、健常者と比べて、発達障害児は高校中退や不登校の比率が高いと言われている。
● 受験生の発達障害特性と性格の長所短所を考慮した上で、教材(参考書や問題集)の選定、試験までの勉強日程、勉強方法をプロが指導してあげると効果的である。なお、一部の優秀な受験生(例:非常に高いIQの自閉スペクトラム症の学生など)においては、逆に独学が向いている場合もある。
● 教材は高校の教科書ではなく、要点が整理されたカラフル図解が豊富にある参考書がよい。受験科目数が多い場合(5科目以上)、通信教育を利用することも合理的な選択肢の一つである。
● 高認の勉強法について、親御さんがマンツーマンで子供に個別指導できればよいですが、できないときは家庭教師をつけることが望ましい。その場合の家庭教師の資質の条件は次のとおりである。
・発達障害の特性を理解している。
・待つことができる。
・聴くことが上手である。
・熱血でない。
・自宅訪問の家庭教師が望ましいが、子供の発達特性や性格によってはオンライン学習の方がうまくいく場合もある。
本記事で紹介する「発達障害児の学習支援サービス」は次のとおりです。
● 家庭教師「発達障害児向けの家庭教師派遣サービス」
● 通信教育「高卒認定試験講座」
精神不安定による入院から高認合格までの経緯
高認試験の受験の検討開始から合格までの経緯(時系列)は次のとおりです。
① 2022年4月22日〜5月21日:
不登校から復学へのプレッシャーで精神不安定になり、1ヶ月間の入院をしました(2022年4月16日に記事投稿「息子[ADHD]は事実上の高校中退→高卒認定を目指す!)。
② 2022年6月上旬:
退院後にしばらく自宅療養して、6月から「復学に向けて週1回のリハビリ登校と課題勉強」および「高認合格のための受験勉強」を同時並行で開始しました。
③ 2022年7月上旬:
7月上旬までの1ヶ月間は私が付きっきりで勉強を指導しましたが、7月半ばから体調不良により受験勉強は予定どおり進まず、マイペースで過去問を解くことに専念させました。
④ 2022年8月5日:
朝寝坊しつつも、ギリギリ間に合って高認受験できました。
⑤ 2022年9月1日:
高認の合格通知(下記)が郵送で自宅に届きました。
父親による息子への受験指導
● 息子の特性理解
6月上旬になって息子の体調も少しずつ回復してきたので、まずは息子と今後の方針について話し合いました。息子はこの段階で不登校の状況でしたが、息子からは「当面は高校への復学の準備と公認の受験勉強の両方を進めたい」との意思表示がありました。
息子はADHDとASDの両方の特性に加え、言語理解が境界知能(WISC Ⅳの試験結果)というハンディがありました。具体的には、次のような特性が顕著でした。
【長所】
・記憶力が著しく秀でている。
・視覚優位である。
・論理的思考力が割と優れている。
【短所】
・計画的にコツコツと勉強を継続できない。
・1日に最大2時間しか勉強する集中力がない。
・ゲームやチャットなど毎日の娯楽を控えめにすることができない。
・読書が苦手(問題文の主旨や文脈を誤解しやすい)
・気分のムラが激しい。
・睡眠障害がある(バイオリズムが不規則)。
・短気である。
・飽き性である。
そこで、彼の発達障害特性と性格の長所短所を考慮した上で、私が参考書を選定し、試験までの勉強日程表を作りました。なお、選択制の受験科目は息子と相談しましたが、私が薦める科目でまずはやってみようという形で息子を説得しました。
●受験科目の選定
息子は高2年までに取得した単位科目として現代社会・国語・英語・数学・世界史A・生物基礎・化学基礎を免除申請することができました。
それゆえ、「地学と物理のいずれかを選択」および「日本史Aと日本史Bのいずれかを選択」という形になりました。最終的に、次の3つを考慮しつつ、本人と話し合って、地学と日本史Aの2科目を受験することとしました。
① 受験勉強の期間が2ヶ月しかないこと
② 息子は非常に疲れやすく、集中力が長時間持続できないこと
③ 息子は暗記が得意
当初、息子は自分では物理の方がいいと言っていたのですが、短気決戦なので物理だと出題範囲を一通り終えることができないと私は考えました。一方、息子は宇宙や気象に興味を持っていたので、地学を進めました。
一方、日本史のAB選択については出題範囲がより狭いという単純な理由で日本史Aを選びました。本人は現代史は馴染みがないのでちょっと不安があったようですが、息子は記憶力が良いので1ヶ月でなんとかなるだろうと私は楽観的に考えていました。
● 参考書の選定
上述のとおり、息子は言語理解力が乏しく視覚優位であることから、教科書は長文が多いという理由で採用せず、要点が色分けされて箇条書きにまとまっている参考書(カラフルな図解が多いことが重要)を選びました。かくして、私が選んだ参考書は東進ブックスのロングセラーです(下記)。
ちなみに、高認専用の参考書は市販されていませんでしたので、一般的な大学受験用の参考書の中から息子の発達障害特性に合致したものを選びました。
一方、過去問題集とその解答は文部科学省のサイトからダウンロードできますが、より詳しい回答解説があった方が良いので市販本(J-出版)を購入しました。
● 勉強のタイムスケジュール
息子の集中力のなさと気持ちの切り替えが苦手であるという特性を考慮して、1科目ずつ勉強を進めることとしました。具体的には次のとおりです。
6月6〜19日:
・最初の1週間:地学の参考書を全体的にさらっと軽く読書(学問体系がわかればOK)
・次の1週間: 地学の参考書からキーワードにマーカー線を引いたりメモに書き写したりしながら読み込む。
6月20〜7月3日:
・最初の1週間:日本史Aの参考書を全体的にさらっと軽く読書(歴史の流れがわかればOK)
・次の1週間: 日本史Aの参考書からキーワードにマーカー線を引いたりメモに書き写したりしながら読み込む。
7月4日〜7月10日
・地学の直近の過去問6回分の1周目(復讐をかねて参考書を見直す)
7月11日〜7月17日
・日本史Aの直近の過去問6回分の1周目(復讐をかねて参考書を見直す)
7月18日〜8月4日
・地学の直近の過去問6回分の2周目
・日本史Aの直近の過去問6回分の2周目
・余裕があれば地学と日本史Aの教科書をサラリと全体復讐。
実際、息子の勉強は概ね予定通りに進んでいました。毎週、土日は私が息子の側に付いて参考書の練習問題をやり切りました。地学に関しては計算問題もありますので、間違えたところはマンツーマンで教えました。
ちなみに、日本史よりも先に地学を勉強させた理由は次のとおりです。地学は倫理的思考や計算により解答を導き出す学問が一定数ありますが、日本史は暗記が中心なので、理解と記憶が定着のしやすさのレベルがより難しい地学を先に片付けるようと計画しました。
タイムスケジュールは1週間くらい遅れて進行しましたので、過去問に取りかかった時期は7月中旬でした。とりあえず問題のパターンと傾向をつかむ必要がありますので、過去問の読解の1週目は時間を気にせずにじっくりやるように助言しました。
高認試験の合格基準は50点弱と言われています。4択問題なので、絶対に間違っているだろうという回答を2つ見抜ければ、確率論としては50点に到達します。
息子には浅くでもいいから2回以上は繰り返して過去問をやることです。2回やるとほぼ答えを憶えてしまいますが、受験テクニックとしてはそれでOKです。
息子曰く、ある程度慣れてきて自分なりの勉強手順が決まると、勉強がゲーム感覚で割りと楽しくなったらしいです。ある意味で、これも発達障害の特性の一つかもしれません。日本史の参考書のキーワード(人物名・事件名・年代など)は妹を使って口頭で問題を出してもらったりして楽しんでいました。
試験の前日、私は「問題文がやたらと長文の場合や解くのに時間がかかりそうな計算問題は捨ててよい」&「シンプルな問題のみに注力すればいいよ」と息子に助言しました。そして、「今夜は早めに寝て、明日に備えろ!」と伝えてその日を終えました。
試験当日に起床できない!
さあ、いよいよ試験当日の朝を迎えました。日本史の試験開始は11時なので、自宅を遅くとも9時30分までに出発しないと間に合いません。ところが、非常事態が発生します。早朝、7時を過ぎて何度も声をかけましたが、息子がなかなか起きてこないのです。
息子の様子を伺うと意識ははっきりしています。どうやら、受験のプレッシャーで起き上がることができないようです。妻と二人で必死で息子を励ましました。ちなみに、妻は完全にキレていました。その時の様子を綴った Twitter 投稿記事を次のとおり紹介します。
なお、幸運にも試験には辛うじて間に合い、息子は無事に午前に日本史を、午後に地学を予定通りに受験できました。
当時の私の心境をリアルタイムで投稿した Twitter の記事を次のとおり紹介します。8月5日は人生でも忘れることができない1日になりました。帰宅後は、疲れがドバッと出てきたのを今でも憶えています。
高認合格は息子の努力が実った初の成功体験
8月30日に文部科学省のサイトで合格発表がありました。息子の番号があることを確認しました。そして、9月1日に合格通知が書面で自宅に郵送されました。
息子は自分で決めたゴールに向かって自分なりに努力した結果、合格を勝ち取ることができました。息子にとって「やればできる!」という自信につながる貴重な経験になったと思います。
実際、その後の息子はバイトという社会経験にチャレンジして、小さな成功体験を重ねていきます(別途記事作成予定)。
ちょっと残念な後日談があります。試験翌日の8月6日からは昼過ぎまで寝坊のぐーたら息子に戻ってしまいました。本ブログのタイトル通り、絵本「モチモチの木」の主人公の豆太とそっくりです。当時の私の気持ちを綴った Twitter を紹介します。
発達障害児の受験勉強法
● 家庭教師
ちょっと手前味噌になりますが、私自身が理科系で大学受験の共通テスト(4択のマークシート方式)を受けた経験があったので、地学の計算問題や図表考察問題の回答テクニックを教えることができました。また、私の趣味レベルですが、日本史は好きな学問ジャンルでしたので、それなりの教養の下地がありました。
でも、文系出身の方や大学受験経験がない方が高校の理系科目(特に数学・物理・化学)の受験勉強法を子供に教えることはちょっと難しいかもしれません。
本人の発達障害特性によって適切な受験勉強法やタイムスケジュールの組み方は多種多様です。要するに、明確な答えがあるわけではないので、本人の発達障害特性と性格と意思の3つの側面を考慮しながら応対する必要がありますよね。多分、この点が一番難しいところではないかと思います。
ところで、高認受験生の多くは高校中退または高校進学を断念した方が多いと思いますが、それゆえどうしても自宅での学習が中心にならざるをえません。親兄弟が教えてあげることができればよいのですが、ほとんどのご家庭ではなかなか難しいのが現状でしょう。
そんな時は塾や予備校に通うのではなく、家庭教師を利用することをオススメします。ただし、次の条件を満たした教師である必要があります。
① 発達障害の特性を理解している。
② 待つことができる(忍耐力)。
③ 聴くことが上手である(傾聴力)。
④ 熱血でない。
⑤ 自宅訪問の家庭教師が望ましいが、人によってはオンライン学習の個別指導の方がうまくいく場合もある。
家庭教師の資質として、①の発達障害特性の理解があることは一番重要です。「発達障害がADHDなのかASDなのか」あるいは「学習障害や知的障害との合併があるのか否か」によっても教え方や対応が異なりますので、発達障害に関する知識のみならず、発達障害者と触れ合った経験があるとベターです。
ちなみに、発達障害児向けの家庭教師派遣サービスがありますので、ご興味があればサイトをご覧ください。
②の待つ力とは、生徒のペースに合わせるという意味です。れは意外と難しいです。発達障害児はそれぞれ独特のリズムパターンがありま。また、気分のムラや集中力が途切れたりすることが健常者よりも多いので、その前提で対処する必要があります。
③の傾聴力とは、勉強の進め方、スピード、理解の程度などを生徒に質問・確認する力と言い換えてもいいでしょう。結構、面倒くさいのですが、教師の側のスタイルを押し付けてしなうと大体うまくいきません。
また、生徒が質問してきた時、困った表情を浮かべた時、だらけ始めた時、とにかく生徒の話をじっくり聴くということが必須です。
④の熱血とは②③と対極にある資質と言えます。逆説的な言い方かもしれませんが、「なんとしてでも生徒の学力を伸ばしてやろう」という意欲が過ぎる人は発達障害児の家庭教師に向いていません。なぜなら、どこかで生徒に無理を強いることになるからです。
⑤は家庭教師のスタイルです。訪問による直接指導とちょっと距離感のあるオンライン指導とどちらがよいかという問題です。
コミュニケーションの精度アップや人間関係の構築のためには家庭教師は自宅訪問して本人と面談できた方がよいのですが、微妙に相性が悪いと逆効果になることがあります。一方、オンラインの場合は相性の問題はあまり表面化しない傾向(微妙な距離感が双方ともに心地よい)があります。
また、生徒のITリテラシーが非常に高い場合あるいはパソコン操作が好きな場合は、あえてオンラインの方がよいこともあります。結果的に、対人の緊張感やストレスがないので、本人がリラックスできるからです。
なお、一部の優秀な受験生(例として非常に高いIQのASDなど)においては、逆に独学が向いている場合もあります。親御さんは本人とよく相談して、最終的には本人の意思を尊重する姿勢が大事だと思います。
● 教材
私の息子の場合、受験科目が2科目だけでよいことがわかったので、私が参考書と過去問を選定しました。短期決戦の場合、教科書ではなく要点が整理されたカラフル図解が豊富にある参考書を購入されることを強くオススメします。
高認試験は9科目ありますが、5科目以上を受験する場合は通信教育の利用するのが便利で経済的です。自分で準備する時間が節約できますので、学習に集中できます。
例えば、民間の大手通販会社が提供している高卒認定試験講座がオススメです。過去問から最新の傾向と対策がよく研究されているので、「必要最低限の労力で勉強できる」と好評のようです(私信)。
参考情報
● 家庭教師「発達障害児向けの家庭教師派遣サービス」
● 通信教育「高卒認定試験講座」
● 【投稿記事】息子(ADHD)は高認合格が裏目となって高校中退が確定【家族4人の近況報告 2023年3月1日】
● 【まとめ記事】学校教育と家庭知育
● 【まとめ記事】発達障害者(知的障害者も含む)のご家族の学歴とキャリアの成功事例
以上
2023年3月21日作・2023年11月1日更新
マメタ父さん