Autism and Brad Pitt with prosopagnosia｜発達障害者/家族のキャリア支援「マメタ物語」

＊記事ボリュームは5,209文字です。
＊サムネイルの画像は、2022年7月8日のYahooニュースの画像を引用しました。

Contents

はじめに
相貌失認とは？
「顧客の顔がなかなか覚えられない営業職の私」と「数人の友達だけと話す発達障害の息子」
相貌失認の事例
自閉スペクトラム症の人は顔の認識に困難をかかえている！
相貌失認と視空間認知能力（虹色の朝陽さんの事例）
顔認識改善トレーニング・プログラム
相貌失認の診断方法
発達障害児の顔認識トレーニングにおすすめの教材
参考情報

はじめに

　2022年7月8日のYahooニュースに「俳優ブラッド・ピットさん、人の顔が覚えられない症状を告白」と題する記事が掲載されました。

　その記事によると、ピットさんはファッション誌GQのインタビューの中で、人の顔がなかなか覚えられない「相貌失認（そうぼうしつにん）」の症状があることを告白し、「誰も信じてくれない」と嘆いています。
　さらに、ピットさんは2013年にも米誌エクスワイアのインタビューで、相貌失認の症状で苦しんでいると打ち明け、それが理由であまり外出しないと語っていました。

2022年7月8日のYahooニュースに掲載された「俳優ブラッド・ピットさん、人の顔が覚えられない症状を告白」と題する記事の上段部分の画像 — 引用元：2022年7月8日のYahooニュース

　私は他人事とは思えませんでした。なぜなら、私自身も「他人の顔が覚えにくい」という特性があったからです。また、自閉スペクトラム症（ASD）の息子にもその傾向があります。

　今回のニュース記事をきっかけに相貌失認についていろいろと調べているうちに、発達障害の特性・相貌失認・人間関係構築の困難さには相関性があることがわかりましたので、本記事で詳しく紹介します。

　本記事の【結論・要約】は次のとおりです。

● 相貌失認の特性があると人間関係の構築が難しい。その場合、本人はそれを苦しく感じて、自閉的になることがある。

● 自閉スペクトラム症（ASD）の児童は相貌失認の傾向がある。

● ASDの特性である「社交性の欠如」は顔認識能力の低さと関係している。

● 発達障害児（特にASD）の親御さんは、我が子に相貌失認の傾向がないかをあらためて確認すると良い。

　
　本記事で、「発達障害児の顔認識トレーニングにおすすめの教材」は次のとおりです。

● 顔の感情表現認識トレーニングカード：モンテッソーリ赤ん坊英語学習カード漫画感情フラッシュカード（子供早期教育おもちゃ記憶ゲーム 14枚入りセット）

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相貌失認とは？

相貌失認（そうぼうしつにん、Prosopagnosia）とは、脳障害の一種です。目や鼻など顔のパーツは知覚可能であるのに、顔全体を見て個人の識別をすることができない状態を指します。俗に失顔症とも呼ばれています。
引用元：「相貌失認」の wikipedia 該当ページ

引用元：「相貌失認」のWikipedia 該当ページ：黄色部分は顔認識に関連する脳の部位（紡錘状顔領域）

　上本町わたなべクリニック院長の渡邊医師（高血圧・生活習慣病の専門医師＆医学博士）によると、相貌失認には先天性（胎児期の脳形成の過程などで人の顔をすばやく認識する機能が低下）と後天性（事故や怪我、また動脈硬化・脳梗塞・脳出血・脳腫瘍・加齢などでその部位の脳機能が傷害）があります。
　前者は100人に一人くらいの頻度で発症すると言われています。ちなみに、相貌失認を発症すると、生活や仕事の場面では次のような支障が生じるとのことです。

【相貌失認（失顔症・人の顔が覚えられない）】

一般の人は多くの人の顔を覚えるために、目・鼻・口の特徴を瞬時に判別し、無意識のうちに分類して記憶しています。相貌失認の人はこのような機能が低下しているために、髪型や顔の形などの情報や、体型や性格、においやしぐさ等を総合的に捕らえて認識します。

そのため、家族や親友などの認識ができるため、先天性相貌失認の人が気がつかないことが多いです。アルバイトや社会に出てから客商売などをする事によって適性がないことなどから気がつくこともあります。

後天性相貌失人の中には症状がひどい場合、家族の顔を認識できない事もあります。顔を見ても誰の顔かわからず、個人の識別ができなくなるといった症状を引き起こします。
引用元：上本町わたなべクリニックのホームページ

「顧客の顔がなかなか覚えられない営業職の私」と「数人の友達だけと話す発達障害の息子」

　私がそう認識してから８年以上が経ちますが、そのきっかけは仕事での接客場面でした。当時の私は新規開拓営業を担当しており、毎日のように新しいお客様や取引先様と対面していましたが、１週間後に再会する直前にはその相手方の顔がほとんど思い出せないということが頻繁にありました。

　そこで、自分で医学書や論文を調べたり、医師の友人に相談したりする中で、私には相貌失認の傾向があることを知りました。
　私の場合、３回ほど面会すると漸く相手方の顔がある程度は覚えられるので（実際は顔認識というよりは声・話し方・体格や風貌も参考にして見分けています）、正式な診断を受けたわけではありませんが、医師曰く「症状としては軽度だろう」とのことでした。

　一方、当時の私は発達障害（ASD+ADHD）の息子のケアにも注力していましたが、息子にも相貌失認の傾向があるのではないかと疑っていました。息子は人見知りが激しく、挨拶や声かけを自分からすることはありませんでしたが、そもそも知人の存在に気づいていないように私は感じました。
　実際、息子は知人（親の私も含む）とすれちがっても気がつかないということがあったと思います（ADHDでもあることから考え事に過集中していた可能性もあります）。また、息子は他人の顔の表情から感情（人の気持ち）を読み取ることが苦手です。

　また、息子は自閉スペクトラム症の特性として社交性がないため、幅広く友人関係を築くことが苦手でした。
　実際、息子が発達障害の症状が顕著になり始めた小学校４年生の時には、息子は学校内で男子２人と女子２人だけしか話せる友人がいませんでした。そして、息子は深刻なイジメの被害を受けていました。

相貌失認の事例

　2019年10月19日発行のビジネス誌クーリエ・ジャポンによると、米国経済誌 ”ワシントンポスト”に「重度の相貌失認と診断されて：人の顔が覚えられない失顔症の私の人生」と題する記事が掲載されました。この中から、相貌失認の典型事例２つを要約して紹介します。

① サディ・ディングフェルダーさん（女性：新聞記者）の症状

・職場で同僚を他人と見間違えた（ともに白人で眼鏡をかけていたため）。
・ショッピングセンターで夫と他人を見間違えた（服装と車が似ていたため）。
・他人を友人と間違えて微笑みかけ、ギョッとされた。
・何度も会っている友人でさえも、思いがけない場所で遭遇したり、髪型を変えたばかりだと本人と認識できない。
・相貌失認がバレないように他人の顔が分かっているかのようなフリをしてごまかすことが多かった。
・友人のほとんどは私が相貌失認だと告げても信じてくれない。

② オリバー・サックスさん（男性：サイエンスライター）の症状

・かかりつけの担当医の顔が覚えられない。
・ときには母親の顔がわからないことがある。
・内気、引きこもり、社会性の欠如、変わり者、アスペルガー症候群と誤解されてきた。

　上述のディングフェルダーさんは脳科学者のジョーゼフ・デクティス医師から正式に相貌失認の医学的診断を受けました。
　ジョーゼフ・デクティス医師曰く、「相貌失認の人は平均よりも頭がいい傾向にある」という。さらに彼は「相貌失認の人はその特性のためにしばしば孤独な少年時代を過ごすことになるが、それは読書や考え事や趣味に没頭することが得意であることと関係しているかもしれない」と言及しています。

マメタ父さん

ジョーゼフ・デクティス医師の発言は、解釈によっては「相貌失認と自閉スペクトラム症が相乗効果的に作用して社会性の欠如がより顕著に現れる」とも言えますよね。

自閉スペクトラム症の人は顔の認識に困難をかかえている！

　顔認識能力の欠如が、自閉スペクトラム症（ASD）の人が社会性をつちかうことが苦手である原因の一つではないかと考えられてきました。

　米国ペンシルバニア州立大学のグリフィン氏（発達神経科学研究所・所長のスージー・シェルフ准教授の研究グループ）の研究成果によって、「ASDの人は健常者と比べて顔認識能力が低い」ということが明らかとなりました。

この研究は、ランダムに選抜した計5000人の治験者を対象に顔の同一性を認識の有無をテストして統計的に処理した大規模調査です。

そこから導き出された結論は、「ASDの人の８０％以上は健常者よりも顔認識能力が低かった」ということでした。ちなみに、年齢・性別・IQの違いによる顔認識能力の差はありませんでした。
引用元：たーとるうぃずコラム「自閉症スペクトラム障害の人は顔の認識に困難をかかえている」 2020年10月19日発信

　よって、ASDの人が対人関係スキルに乏しい原因としては「ASDの情緒特性（内向的でこだわりが強く他人の気持ちを理解することが苦手）のみならず相貌失認の特性も大いに関与している」ことが科学的に裏付けられました。

相貌失認と視空間認知能力（虹色の朝陽さんの事例）

　ちなみに、2022年6月15日配信の記事「【体験談】子供が発達障害かも？と感じたら、親がやるべきこと５選」で紹介した朝陽君（３歳で自閉スペクトラム症と診断）は ”人の顔が覚えられない” という特性があると、お母さんのキミカさんが音声配信サービス Voicyの番組「虹色の朝陽」の中でコメントされています。

【虹色の朝陽さんの事例】

朝陽君の場合、幼少の頃から「歩いている時によく人にぶつかる」という特性があったそうです。朝陽さんのお母さんは、「その原因は視空間認知能力と関係があるのでないか」と主治医から言われたそうです。

視空間認知能力とは、目から入った情報を脳で処理する機能の一つで、自分を取り巻く物の位置や距離を立体的に把握する能力です。人の顔を認識する力とも関連しているとのことです。

視空間認知能力の向上にはビジョントレーニングが有効とのことで、朝陽君も放課後デイサービスの中で取り組んでいらっしゃるようです。

顔認識改善トレーニング・プログラム

● 顔認識力の改善法

　上述のディグス医師がカリフォルニア大学バークレー校で開発したコンピュータートレーニングプログラムがあるという（詳細は不明）。

　一方、上述の上本町わたなべクリニック院長の渡邊医師は、日本国内の治療法について次のとおり発言されています。

相貌失認は基本的に治らない。特に先天性のものの治療は確立されていません。顔以外の情報で相手を認識するトレーニングが必要です。トレーニングで、映画を楽しんだり、接客業をこなすことは十分可能です。

一方、後天的相貌失認の場合、障害部位が原疾患の治療により、治ることはあります。たとえば、脳腫瘍が顔領域を圧迫していて、相貌失認となった場合、脳腫瘍を手術などで取り去り、物理的に顔領域の障害が回復すれば劇的に改善することはありえます。
引用元：上本町わたなべクリニックのホームページ

● 顔認識トレーニングツール（市販品）

　相貌失認の本質とはちょっとそれるかもしれませんが、乳幼児が人の感情表現を英語で覚える練習方法としてユニークなカード遊び教材があります。

マメタ父さん

私の友人が子供（高機能自閉症）の療育の一つとして利用していた幼児学習教材です。このカード遊びの主な目的は英語の感情表現（例：happy=幸せ・嬉しい）を覚えることですが、「発達障害児の顔認識力向上にも効果的」と言っていましたよ。しかも、英語も学習できるので一石二鳥とのこと！

モンテッソーリ赤ん坊英語学習カード漫画感情フラッシュカード（子供早期教育おもちゃ記憶ゲーム 14枚入りセット）

⭐️ このカードは乳幼児向けの教材ですが、英語の勉強ではなく「顔の感情表現の習得練習教材」として自閉スペクトラム症（通常２−３歳の発達の遅れがあるため）の子供が利用する場合は５歳以上のお子様でも十分に役立つと思います（私信）。

相貌失認の診断方法

● 医学的診断

　相貌失認の医学的な診断基準はすでに確立されていまして、問診（実際の生活での困りごとの聞き取り）と顔認知検査によって判定されます。代表的なものとしては次の２つです。

① 有名人の顔と見知らぬ人の顔およびその名前と写真を見せて答えさせる。

② 喜び、悲しみ、怒り、普通の顔の4種類の写真から表情を判定する。

● インターネットに公開の簡易診断テスト

　一方、正式な医学診断ではないですが、簡易診断テスト（英語）がインターネット上で公開されています。
　このテストは英語ですが、パソコンの画面内で別のウィンドウを開きグーグル翻訳のカラムにコピペした日本語訳を見ながら英語サイトに入力をすれば受験することができます（アカウント登録が必要なのでちょっと面倒ですが・・・）

● 発達障害児の行動を観察

　発達障害児（特にASD）の親御さんが我が子の行動をよく観察したり本人に確認することで相貌失認の傾向を見つけることができる場合があります。そのチェック項目は次のとおりです。

・久しぶりに我が家を訪れた祖父母が誰なのかわからないことがある。

・これまで何度も遊びにきたことがある近所の友達が突然やってくると誰なのかわからないことがある。

・他人に向かってママあるいはパパと呼びかけたことがある。

・怒った顔で叱っても、ニコニコしていることがある。

・担任の先生（教師）と他の先生との区別がつかないときがある。

・友達または先生と道路や廊下ですれちがっても気がつかないことがある。

　もし、「我が子はもしかして相貌失認かも？」と感じたら、まずは医師に相談してください。そして、ご家族や学校関係者と情報共有してください。