* 記事ボリュームは7,066文字です。お時間がない方は、冒頭のチャプターの「はじめに」だけをお読みください。
はじめに
ご存知のとおり、発達障害のお子さんにおいて、個人差があるものの概ね共通した行動特性があることが知られています。
ADHD(注意欠如多動症)およびASD(自閉スペクトラム症)の典型的な特性の一部を次のとおり示します。
● ADHD
・落ち着きがない。
・そそっかしい
・時間にルーズ
・片付けが苦手
・忘れ物が多い。
● ASD
・こだわりが強い。
・特定のものだけに興味や関心を示す。
・他人とのコミュニケーションが苦手
・環境の変化に弱い。
発達障害児はこれらの特性があるがゆえに、家庭や学校で様々な困りごとや問題行動が生じます。それらに対して、親御さんや学校の先生方が発達障害児のそれの特性に配慮して、環境を整えたり適切な教育指導(療育を含む)によって改善を図っています。
障害が重度である場合は、医師の診断・治療を受ける子供さんもいらっしゃいます。完全に解決するわけではありませんが、障害にともなう困り事の程度がかなり小さくなることがあります。
そんな中、厳しい現実問題に直面する時期が小学校6年生のときです。中学校への進学において通常学級と特別支援学級を選択する必要がありますが、知的な障害がない発達障害児においては悩ましい問題です。
仮に、通常学級を選択する場合でも、中学校の新しい教育システムに慣れながらコンスタントに勉強を継続していく必要がありますが、発達障害児にとってはこれを習慣化することが非常に難しいのです。
そこで、本記事では知的障害がない発達障害児に限定してお話をさせていただきます。
さらに、中学3年生になると、高校進学という現実問題が立ちはだかります。このあたりから、その子の将来に多大な影響を及ぼす選択を迫られます。
高校受験において学力による選抜がある場合は、合格レベルの学力に到達するために勉強しなければなりません。
仮に、高校に進学できたとしても卒業するためには所定の単位取得が必要ですから、そこでもそれなりに勉強を継続することが必須です。
まとめると次の4つのが人生の岐路になるというわけですが、「計画的にコツコツと勉強をこなすことが苦手」という発達障害の特性上、「学校の教育カリキュラムに順応して所定の期限までにやるべき課題をこなすことができない」というケースは非常に多いのが現状です。
① 小学6年生(中学校進学での学級選択): 通常学級 or 特別支援学級
② 中学3年制(高校進学での制度選択): 普通科(通学制)or 普通科(通信制/定時制)or 高専 or 高卒認定 or サポート高 or 特別支援学校 or 就労
③ 高校3年生(大学または専門学校への進学または就労):高校卒業 or 高卒認定(旧大検)or 就労移行支援(訓練校を含む) or 契約社員(バイトを含む) or 正社員(障害者枠)or フリーランス
我が家の場合、親から見ると「うちの子は好きなことは没頭するのにどうして学校の勉強は全くやろうとしないのだろう?」「少しずつでもいいから毎日コツコツやれないのかな?」とつくづく思う毎日でした。
そんなとき、偶然に精神科医の本田秀夫さんの講演(YouTube配信)を見ました。その中で、彼は次のように発言されていました。
「ADHDの人でやっかいなのは、自分がこれは大事だと思った時だけうまくいくんですよ。・・・中略・・・自分の興味がないときはさぼっているみたいに見えるんだけど、それしかできない人たちなんですよね。」
自分でもびっくりするくらい、腑に落ちましたね! 我が息子はそのパターンにぴったりだったからです。
本記事では、「所定の期限までにやるべき勉強を計画的にこなすことが苦手」という発達障害特性に対して、親はどのように対処すれば良いかについて考えてみたいと思います。
本記事の【結論・要約】は次のとおりです。
●「毎日コツコツと計画的に勉強を進めることは苦手」という特性がある発達障害児は、学習の遅れや挫折が表面化することが多い。
● その解決法の一つとして、発達障害特性でもある「いざとなれば短期集中で一気にやり抜く力」を逆手にとって、その能力を磨くことが重要である。
● 「自力でできないことを他人に頼る力」を養うことも「毎日コツコツと計画的に勉強を進めることは苦手」という弱点を緩和する対処法として有効である。要するに、他人に困り事を伝えて協力を得る力である。
● 未成年の発達障害児にとって親御さんは絶対的なサポーターである。我が子が困り事を伝えてきたら、親御さんは全面的に子供に協力してあげることが重要である。
コツコツと努力できない発達障害児に適した勉強スタイル
発達障害の特性が学校の成績にプラスに働く場合とマイナスに働く場合がありますが、これらは互いに表裏一体です。具体的には、次の2つの発達障害特性です。
① 興味がない科目は全く勉強しないが、興味がある科目は積極的に勉強する。
② 毎日コツコツと計画的に勉強を進めることは苦手だが、いざとなれば短期集中で一気にやりぬく力がある。
①は興味のムラが大きいということですが、逆に興味を持つことができれば健常者以上に自主的により深く勉強する力へと繋がります。
また、②においては、逆に「過集中」という発達障害特性をうまく利用して、要領よく重要な箇所だけを短期間に一気にやり抜く力を引き出すことができれば、結果的に健常者に負けることはありません。
実際、私の息子(ADHD+ASD)も例外ではありません。それどころか、上記2つの特性が甚だしいのです。具体的には次のとおりです。
【私の息子(ADHD+ASD)の特性】
・数字と形に強いこだわりと興味があり数学と美術は割と得意だが、それ以外の科目は全く勉強する気が起こらない。
・集中力が30分以上続かない(好きなゲームやチャットだけは何時間でも続けてできる)。
・これまで、毎日コツコツ勉強したことがない。やろうとしてもできない。
・1日に最大で2時間しか勉強できない(モーチベーションが続かない)。
・毎朝、決まった時間に起きれないが、資格試験日・高認試験日・友達とのデート日・旅行当日など絶対に失敗できない時だけはきちんと起床できる(ちなみに勉強できる時間帯は夜のみ)。
精神科医の本田秀夫さんは、そのような発達障害児が上手に勉強をやり切る方法についてユニークな提案をされています。
調布市社会福祉協議会が配信するYouTube 「改めて『発達障がい』とは何か考える」 から本田医師のコメントを一部抜粋して紹介します。
引用元: YouTube 「改めて『発達障がい』とは何か考える」 時間位置 32:05~33:44 本田秀夫(精神科医・信州大学 教授)=講師 調布市社会福祉協議会=配信
ADHDの人でやっかいなのは、自分がこれは大事だと思った時だけうまくいくんですね。自分はこれが大事だと思っていることが、他の人から見るとちゃっかりしているように見えることがあるので腹が立つんですよね。自分の都合がいいときはちゃっかりやって、後は自分の興味がないときはさぼっているみたいに見えるんだけど、それしかできない人たちなんですよ。
そういう人に逆に興味がないことにがんばれとかね、ふだんからコツコツとがんばれとか言われると、そこでエネルギーを使ってしまうと折角いい持ち味としてもっていた「いざというときにがんばれるというエネルギー」がなくなったりするのね。
ADHDの人の場合、ふだんはチャランポランでもいいけどいざというときはちゃんとやるというタイプに育つか、あるいは普段はコツコツがんばり屋さんに育つのはいいけどいざというときに必ず失敗するようになるんですね。どっちがいいかと考えるべきで、人間はプロセスよりも結果が大事なんですよ。ふだんはどんなにチャランポランでいいから、いざというときはがんばるという方が社会に出やすいですね。自分の自信にもなりますからね。
ADHDのお子さんには君の目標は必ずこれだといってね。「コツコツよりも一発勝負」「
前もってよりもギリギリセーフ」。いかに一発勝負でうまいことやるか、いかに前もってコツコツやらなくても土壇場で帳尻をあわせるかというところの技術を磨いた方がよほど現実的なんですね。
この本田さんの講演を見たとき、私自身も肌感覚としては「そのとおりだわ」と思わず独りごとを言ってしまいました。
私の息子の成功パターンについてエピソードを紹介します。
【我が家の事例: 息子(ADHD+ASD)は典型的な短期集中型】
振り返ってみると、不思議なことに「息子も娘も大事な場面では意外と失敗していないかも・・・」と感じました。これは嬉しい発見でした。
ただ、期限間近になって、本人も焦りながらバタバタしつつ、家族総出で手伝って、ギリギリ間に合った! というパターンがほとんどでしたね。
本人もたいへんですが、親も必死です。ぶっちゃけ、息子の宿題を親が先にやって、その回答を見ながら逆算で本人に理解させるみたいなこともやっていました。
この教え方はあまり良くないことだと思いつつも、これしかサポートする術がありませんでした。
ちなみに、息子は早朝に起床することができないのですが(親が声かけをしてもなかなか起きない)、期末試験日・資格試験日・学校の行事日・面接日・入院日・友人と遊ぶ日など本人にとって大事な日はちゃんと早朝に自力で起きてきます。
一般的に、発達障害児は発達の遅れに個人差があるものの、小学校5〜6年生くらいになると自我が芽生え始めて他者と自分を比較するようになります。
そして、「勉強やスポーツでみんなが普通にできることが自分はどうしてできないのだろう?」と悩んだり、劣等感を持ってしまうことも多々あります。
そんなとき、プロセスはどうであれ、親に手伝ってもらうなど多少のインチキがあっても、「最後はやり切った」という結果が本人に自信を与えます。実際、我が家はそれでなんとか持ち堪えてきたと思います。
「高校または大学への進学」に対する現実問題
本田医師の提言に一時は納得した私ですが、冷静に考えると「成功すればいいですが結果的に失敗したときはどうなるのだろう」と思うわけです。
確かに中学2年生くらいまではその方法で大体うまくいくのですが、果たして高校受験や大学受験でも通用するだろうかとちょっと不安を覚えました。
というのは、「落ち着きがない」「忘れ物が多い」というADHD特性は必ずしも勉強の成績に著しい悪影響を及ぼすわけではありませんが、「興味がないことは全くしない」「コツコツと努力しない」という特性は次のような2つの課題をこなすうえで圧倒的に不利になることが多いのが現実だからです。
・積み上げ型の科目の学習(例:理系科目)
・受験勉強(例:県立高校の普通科・国公立大学)
例えば、数学・物理・化学などの理系科目は倫理的な積み上げ式の学習科目なので、一夜漬けで勉強してもなかなか習得することはできません。
また、日本国内の普通科の高校受験や国公立大学の受験(共通一次試験を含む)では文系理系のそれぞれにおいて複数の必修科目が課せられますから、興味がない科目も勉強しなければなりません。
社会人として成功した発達障害者の学歴(理系 or 文系)と職歴
国内外で大成功した発達障害者の学歴と職歴を調査した結果(固定記事:「発達障害キャリアの有名人」を参照ください)、おもしろいことが明らかになりました。
結論から申しますと、成功者の多くが本田医師が推奨する「コツコツよりも一発勝負」が有利に働くような大学の学部専攻および職業を選択していたのです。具体的には次のとおりです。
① 成功した発達障害者が進学した大学の学部は圧倒的に文系が多い(特に私立文系は受験科目が少なく暗記型が有利)。
② 数少ない理系出身の発達障害者の成功事例は研究職またはIT関連分野の経営者に偏っているが、彼らのほとんどが高いIQの持ち主で特定の分野に著しい興味とこだわりを持った人たちである。
③ 成功した発達障害者の職種としては、IT系の経営者・学者・芸術家・作家・芸能人・インフルエンサー(フリーランスを含む)など、時間・場所・他人に縛られない自由業が多い。
上記①について、数学や物理など論理的な積み上げ型の科目は一夜漬けでは高得点を取ることはできません。やはり、暗記や試験傾向対策など短期集中型の勉強法が有効な受験となると文系学科になるでしょう。
そう考えると、発達障害者のほとんどが文系の学部に進学しているという事実に納得できます。
上記②について、ASD特性の一つである「こだわり(興味の偏重)」とADHD特性の一つである「過集中」が相乗効果的にプラスに作用したケースと言えるのではないでしょうか?
ただ、悲しいかな、理系分野で成功するためには論理的思考に秀でている必要があります。要するに、IQが平均レベル以上であるとかなり有利であることも、これまた事実だと思います。
最後に上記③について、発達障害者が成功した職種が他社との協調や環境の縛りをあまり必要としない自由業であるという理由は、自分のペースやスタイルで作業を進めたいという発達障害の特性にうまく合致しているからです。
逆に言えば、計画を立てて毎日コツコツ努力することが苦手でも「短期集中力」と「他人を引きつける個性」で成功できる職業は「IT系の経営者・学者・芸術家・作家・芸能人・インフルエンサー(フリーランスを含む)」ということなのでしょう。
特別な学才がない発達障害者はどうすればよいか?
差別的な意図は全くありませんが、現実の問題に切り込んでいくために、思い切ったぶっちゃけ表現で問いかけたいと思います。
「それほど頭が良いわけでもなく、スポーツや芸術など特技があるわけでもなく、強い興味がある特定分野もない発達障害児はどうすればよいでしょうか?」
これは発達障害児を持つ親御さんにとって切実な問題です。ちなみに、発達障害の診断時に知能検査(WISC Ⅳ)を受けますが、親御さんの中にはこの結果にショックを受ける方もいらっしゃいます。
WISC検査とは、次の4つの指標を評価して、知能指数を偏差値として数値化する検査方法です。
・言語理解
・知覚推理処理速度
・ワーキングメモリー
・処理速度
ぶっちゃけ、この知的能力においてハンディがあると、勉学を得意とすることは難しいかもしれません。
逆に、高いIQを持っていれば、学者(研究職)や技術専門職(コンピューター開発やロボット工学など)などの道が開ける可能性があります。
もちろん、IQは単なる一つの能力指標に過ぎませんが、本人の得意な分野を発見するうえで参考になることもあります。
ちなみに、宇宙ロケット開発に取り組むホリエモンこと堀江貴文さん(インターステラテクノロジズ株式会社 創業者)は、出演したネット番組 NewsPicks の中で「やるべきことが普通にできない人でも人生がうまくいく方法」を提言しています。
その記録映像がYouTubeで公開されていますので紹介します。
「出来ない人って本当にできないんだな」というのもわかる。僕からすると当たり前のことができない人が結構いて、僕ちょっと最近飲食とかやっているでしょ。何十店舗とかって見てると、すげえちゃんとやる人と全然ダメな人がいるわけですよ。全然ダメな人って、やっぱり例えば毎日のルーティンワークができないんですよ。やればいいのにってことがやっぱりできない人は一定数いて、僕の感覚で言うと半分以上の人はそれできていないなっていう、だから商売もうまくいかない。じゃ、できないからと言って、絶対うまくいかないわけではないですよ。
できないことを認めて、真っ裸になればいいんですよ。そしたら、周りが助けてくれるんで。こいつちょっと頼りないから、行動力あるけど頼りないから助けてあげなきゃってなっちゃって、僕はそういうタイプの社長をいっぱい知っているんです。
引用元:YouTube【堀江貴文】無能な人も●●出来れば人生うまく行きます。失敗を恥ずかしがって行動しない人と差が開いていきますよ【ほりぬき ホリエモン切り抜き】 時間位置 00:00~33:44
一見、差別発言とも思えるような過激なタイトル「無能な人も●●出来れば人生うまく行きます。」となっていますが、中身は割と現実的な話で、じっくり考察してみると発達障害者にとっても参考になるような気がします。
要するに、端的に言えば、次のとおり3つに要約できます。
・素直になりなさい。
・他人に頼る力を身につけなさい。
・他人から可愛がってもらえる人になりなさい。
これら3つの提言を突き詰めると「社会性を身につけなさい」ということになりますが、そこまで深刻に考える必要はありません。
困ったときはとりあえず身近にいる人、例えば親、兄弟姉妹、学校の先生や友達、学童・放課後デイサービス・療育施設の職員、お習い事や塾の先生・家庭教師、近所のおばさんの中で一番声をかけやすい人にSOSを出しましょう。
もちろん、ASDの子供さんは社交性が乏しい特性がありますので、他人に困り事を伝えること自体がなかなかできないというお子さんもいらしゃるでしょう。
そんなときは、周りの大人たちがその子をよく観察してこまめに声かけをしてあげるといいでしょうね。
特に、未成年の発達障害児にとって親御さんは絶対的なサポーターです。常日頃から親御さんは我が子に「どんな時でも100%味方だよ」と繰り返し伝えることが大切です。
実際、我が子が相談してきたら、仮に仕事や家事が立て込んでいても、仕事を休んででも、徹夜してでも子供に協力してあげるという覚悟が親にあれば、だいたいなんとかなります。
参考情報
● YouTube「改めて『発達障がい』とは何か考える」 本田秀夫(精神科医・信州大学 教授)=講師 調布市社会福祉協議会=配信
● YouTube 「【堀江貴文】無能な人も●●出来れば人生うまく行きます。失敗を恥ずかしがって行動しない人と差が開いていきますよ」 堀江貴文(インターステラテクノロジズ株式会社 創業者)=演者 ほりぬきちゃんねる=配信
●【まとめ記事】学校教育(特別支援)と家庭知育(習い事・資格)
●【まとめ記事】子育て/家事/仕事の両立
●【まとめ記事】発達障害者の学歴とキャリアの成功事例
以上
2022年8月14日
マメタ父さん