毎日が辛い当事者の方へ

人生の苦難にどう向き合うか?(要約編)

* 記事ボリュームは3,928文字です。

はじめに

 皆さんは人生の中で途轍もなく大きな苦難に直面したとき、どのようにして切り抜けてこられましたか?

 人生には避けることができない苦しみがたくさんあるのではないかと思います。例えば、親族の死、治療が難しい病気や障害、突然のリストラや倒産、やがて尽きる寿命もそうです。どんなに科学技術が発展しても、どんなに勉強したとしても、どんなにお金を持っていたとしても、解決できないことは往々にしてあります。
 「なぜ神様はわたしを救ってくれないのか?」、「どうして自分だけがこんなにも苦しまねばならないのか?」と問うた経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。

 私自身が直面した「自力では到底解決不可能な苦難」とは、「発達障害者として生まれてきた我が子2人に対して、私は何をしてあげることができるのか?」ということでした。
 子供達を療育する中で、いろいろな出来事がありました。もちろん、最新の医療技術によってある程度の改善はできましたが、心の触れ合いに関してはまだまだ難しいところがあります。

 3年前に、妻は子育ての悩みからうつ病を発症しました。なかなか完治することはなく、障害者手帳(3級)を取得しました。妻がここまで辛い思いをしていたことを私は気づいてあげることはできませんでした。今となっては、悔やんでも悔やみきれません。

 本投稿では、私が少しだけ救われた教訓のいつかをお話しさせていただければ幸いです。

苦難は神が与えた試練?

 聖書の教えでは、「苦難は神が人間に与えた試練」という考え方があります。この解釈は、旧約聖書のヨブ記に起因するようです。ヨブ記とは次のような物語です。

ウツの地に、信仰心の厚いヨブという名の男がいました。神はヨブの信仰に疑いをもつサタンからの提案を受け入れ、「彼の信仰が打算的なものではなく真に純粋無垢なものであるかどうか」を試すため、ヨブから全ての財産を奪ってしまいます。さらには、サタンによって、ヨブは重篤な皮膚病を患い苦悩します。

それでも、ヨブの神への忠誠心が揺らぐことはなありませんでした。「あなたをこんな姿した神を呪う」と叫ぶ妻に向かって、ヨブはこう言うのです。

「お前まで愚かなことを言うのか。わたしたちは、神から幸福をいただいたのだから、不幸もいただこうではないか。」

引用元: 書籍「旧約聖書 ヨブ記」 関根正雄1=翻訳

 皆さんは、このヨブの信仰心をどのように受け止められましたか? クリスチャンでなければ、納得できない人もいるでしょう。
 人はその試練と戦いながらも、「もはや自分の力ではもうどうすることもできない」と悟ったとき、どうすればよいのでしょうか?

苦難は宿命?

 作家の新美南吉さんの童話「かなしみのでんでんむし」では、”かなしみ”は全ての生きとし生けるものが背負う宿命であることを物語っています。

一匹のでんでん虫が、自分の背中の殻が ”悲しみ” でいっぱいになっていることに気がつきます。そこで、そのでんでん虫は「なんて自分は不幸なのだろう」と思い、次から次へと他のでんでんむしたちにそのことを話します。
 ところが、返ってくる答えはみんな「あなたと同じように私の殻も悲しみでいっぱいなんです」という嘆きだったのです。最終的に、そのでんでんむしはこう悟るのです。

「かなしみはだれでももっているのだ。わたしばかりではないのだ。わたしはわたしのかなしみをこらえていかなきゃならない」

引用元: 絵本「かなしみのでんでんむし」 新美南吉2=著 かみやしん=絵
 Kindle本「かなしみのでんでんむし」 新美南吉2=著  イズマヒロキ=絵  デジタル絵本の表紙画像
Kindle本「かなしみのでんでんむし」 新美南吉2=著 イズマヒロキ=絵 デジタル絵本の表紙画像

 皆さん、いかがでしょうか? かなしみ(苦難)を消そうともがくのではなく、「この苦難を宿命として自ら引き受けるんだ」という決意が必要なのではないでしょうか? 

ダメなときほど運がたまる!

 芸能人の萩本欽一さんは著書「ダメなときほど運がたまる」の中で、次のように述べておられます。

「自分はなんて不幸な人生なんだろう」と感じている人は、こう考えればいいんだよ。

「今は運の芽が育っているときなんだなって。そう思うとつらい日々のなかにキラッと光が見えてくることがあるよ。それでも光が見えない人は、もっと遠いところででっかい運が待っています。」

引用元: 書籍「ダメなときほど運はたまる〜だれでも”運の良い人”になれる50のヒント 」 萩本欽一=著
文庫本「ダメなときほど運はたまる〜だれでも”運の良い人”になれる50のヒント 」 萩本欽一=著 本の表紙画像
文庫本「ダメなときほど運はたまる〜だれでも”運の良い人”になれる50のヒント 」 萩本欽一3=著 本の表紙画像

 苦難を引き受ければ引き受けるほど、一方でそれに相当する幸運が育つということは、結局のところ一生涯という長期間で見れば「運とはプラスマイナスゼロ」ということなのかな?とも思います。

苦難の現実世界とつながった別世界とは?

 作家の斎藤隆介さんの童話「花さき山」は、辛く貧しい境遇に耐えながら自ら善行を行う子供の物語です。

人は苦難に耐えつつも善行するとき、その度にきれいな花が咲く「花さき山という別世界」があるという。

引用元: 絵本「花さき山」斎藤隆介=作 滝平二郎=絵
絵本「花さき山」斎藤隆介=作 滝平二郎=絵  絵本の表紙画像
絵本「花さき山」斎藤隆介4=作 滝平二郎=絵 絵本の表紙画像

 苦難に耐えて前向きに生きていくことが、花さき山を通じて、回り回って、誰かの幸せに繋がっていくと考えれば、苦難の中にも希望を見出すことができるかもしれません。
 逆から見れば、あなたの幸せの裏側で、あなたのために誰かが苦難に耐えているのかもしれないのです。

 本作は必ずしも子供向けの絵本とは思えません。むしろ発達障害児のご家族に読んでほしい作品です。
 ちょっと大げさかもしれませんが、「利他の精神がこの世の不条理を浄化する」と説く哲学書といってよいのではないでしょうか?

この世界は狂っている!

 米国で政府閣僚・大学長・YMCA役員を歴任したケント・M・キースは著書「それでもなお、人を愛しなさい」の中で、社会の不条理に負けない生き方を実践するための十箇条を唱えています。その中から私が特に心を惹かれた2つの言葉を紹介します。

・人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。

・人が本当に助けを必要としていても、実際に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。

引用元: 書籍「それでもなお、人を愛しなさい 人生の意味を見つけるための逆説の10ヵ条」 ケント・M・キース=著
文庫本「それでもなお、人を愛しなさい 人生の意味を見つけるための逆説の10ヵ条」 ケント・M・キース=著 本の表紙画像
文庫本「それでもなお、人を愛しなさい 人生の意味を見つけるための逆説の10ヵ条」 ケント・M・キース5=著 本の表紙画像

 この本は、冒頭から実に衝撃的です。「この世界は狂っているということをまず認める、そこから始めるのが最善です。」と書き出しています。そして、最後の一節では「逆説的な人生を送ると、この狂った世界において生きることの意味を発見できるだろう」と締め括っています。

 著者の主張に明確な根拠やロジックはほとんどありません。それでも、私は感情を強く揺さぶられます。結局のところ、「理屈はどうでもよい。とにかく実践せよ! そうすれば人生の苦難の意味が理解できるから」ということなのかもしれません。
 彼の言葉は、自分の力ではどうすることもできない「社会の不条理」に悩んでいる人の道標になるのではないでしょうか?

マメタ父さん
マメタ父さん
本作はノーベル文学賞作家であるアルベール・カミュの不条理哲学書 「シーシュポスの神話」 を地で行くような実践型エッセイです。

 ちなみに、本書の巻末にはある読者の解説が付いています。読者とは、他ならぬ「自閉症の息子、うつ病の妻の自殺未遂、取締役から子会社へ左遷・・・」など数々の試練を耐え抜いてこられた佐々木常夫さんです。

支援とは?

 時として、偶然にも他人の苦難を見聞きした時、なぜだか自分自身の痛みのごとく心が揺さぶられることがありませんか? 例えば、虐待やニグレクトに苦しんでいる子供らを支援しておられるボランティアの方々の中にはそういう人がいらっしゃるのではないかと思います。
 実際、食事や衣類のお世話をしながら、子供たちに寄り添って心のケアもされています。現実的には、このような物理的支援と心理的支援の両方が不可欠です。

 支援者の方々はなぜ自発的に支援しようとするのか、人のためでもない、自分のためでもない、理由なんてない、苦しむ子供たちを目の当たりにして、そうせずにはいられないという性格なのかもしれません。
 まるで、何者かに突き動かされているかのようです。ある意味で、加害者の罪を代わりに背負っておられるのかもしれません。

 「支援とは、時空を超えて他人の苦難を自らの苦難として共有連帯するもの」とは言えないでしょうか?
 これは「他人への愛」や「利他の精神」と言い換えることもできますが、「苦難の共有連帯」は互いにもっと深く突き刺さる行為(自己犠牲ではない)でなくてはなりません。

 「必ず、どこかで、誰かが、この世の不条理をかたがわりして、引き受けてくれている」と私は信じています。

《追記》
上記の5つのテーマについては、追ってそれぞれを個別に詳細記事にして投稿するつもりです。ご期待ください。

参考情報

● オススメ書籍のご紹介
1:関根正雄(旧約聖書研究者)
・単行本「旧約聖書 ヨブ記」 関根正雄=翻訳
2:新美南吉(児童文学作家)
・絵本「かなしみのでんでんむし」 新美南吉=著
3:萩本欽一(コメディアン・テレビ司会)
・単行本「ダメなときほど運はたまる〜だれでも”運の良い人”になれる50のヒント 」 萩本欽一=著
4:斎藤隆介(児童文学作家)
・絵本「花さき山」 斎藤隆介=著
5:ケント・M・キース(米国の行政官僚・講演家・法学博士)
・文庫本「それでもなお、人を愛しなさい 人生の意味を見つけるための逆説の10ヵ条」ケント・M・キース=著

●【投稿記事】さだまさしさんの歌詞「道化師のソネット」を読み解く! 発達障害者家族の悲しみを笑いに転化するには?

●【投稿記事】発達障害者家族は正解がない問題にどう答えるべきか? ボブ・ディランさんの歌詞「風に吹かれて」を読み解く!

●【投稿記事】創作奇譚3 ”賽の河原に響く声”(絵本「かなしみのでんでんむし」を加筆改編)

●【投稿記事】子供が発達障害で妻がうつの私が “佐々木常夫さん” から学んだ「父親の心得7選」(家族の絆 編)

●【まとめ記事】毎日が辛い当事者へ

●【まとめ記事】発達障害者(知的障害を含む)のご家族の学歴とキャリアの成功事例

●【まとめ記事】発達障害に関する参考コンテンツ(書籍・動画・芸術・報道)

以上

2022年1月10日作・2023年11月12日更新

マメタ父さん