* 記事ボリュームは3,740文字です。
* サムネイルのイラスト部分は、絵本「うろんな客」の表紙のアップ画像です。
はじめに
”エドワードゴーリー”は、身の毛がよだつほど残酷でおぞましい作風からカルト的な人気がある絵本作家(米国)です。
そんな彼の作品群の中で、登場人物の行動が発達障害特性を暗示させるような絵本があります。
その作品名は「うろんな客」です。”うろん” という言葉は聞き慣れない方も多いと思いますが、”怪しげな” という意味です。
「突然の怪しげな訪問者の自由奔放で身勝手な言動に対して住人は困惑しながらも、気がつけば17年も一緒に暮らしていた」という奇妙なお話です。
不思議なことに、この作品は他のゴーリー作品群と明らかに毛色が違って、「恐怖感や残酷さ」はありません。
エドワードゴーリーは世界的に超有名な絵本作家で、彼の作品は多数の言語に翻訳されて世界中で販売されています。
それゆえ、この絵本作品「うろんな客」に対しても多数の評論家がエッセイを書いていますが、この物語の趣旨を発達障害または知的障害と関連づけた評論はおそらく一つもありません。
ですから、もしかするとこの私の批評は独善的で身勝手な解釈かもしれませんが、発達障害者家族であるがゆえに私は「うろんな客」に登場するちょっと憎めない動物とその家族によって大いに癒され勇気づけられたことも事実です。
ちなみに、英語の原文は挿絵ごとに2つのセンテンスから構成され、韻を踏んでいます(各センテンスの語尾の発音が同音に設定されているのでリズミカル)。
それを日本語に反映させるために、翻訳家の柴田元幸さんは日本の短歌「五七五七七」の書式で翻訳されています。その絶妙な表現もお楽しみポイントです。
本記事では、発達障害者家族の立場からこの作品を読み解いてみようと思います。
本記事の【結論・要約】は次のとおりです。
● ”エドワードゴーリー”の絵本「うろんな客」の主人公は得体の知れない変な動物(サムネイルにあるペンギンのような動物)で、言葉を発することはなく、その行動から自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持っていることが暗示されます。ちなみに、「うろんな・・・」は”怪しげな・・・”という意味です。
● この物語では怪しげな動物が突然に人間の家族の家にやってきてしれっと仲間入りしてしまうのですが、その動物は長年にわたって迷惑千万の奇行を繰り返します。ところが、家族は困惑しながらも、追い出そうとするわけでもなく、それなりに受容していきます。この家族の態度を見ると、発達障害者家族の在り方について深く考えさせられます。
● この変な動物が家にやってきてから17年も経過しましたが、この動物は今だに居座っています。人間の子であればちょうど高卒くらいの段階で、通常は家を出て独り立ちする時期です。でも、「この動物がいなくなる気配は全くない」という”微妙な絶望感”で物語は終わります(ちょっと笑)。これは、17歳の発達障害児とその家族を楽観的に投影したかのような場面表現です。どういうわけか、癒されます。
● とにかく、おもしろい! 「なんとなく憎めない動物の姿」と「微妙に困惑する家族の顔の表情」を描写したモノクロの絵が絶妙! 発達障害の方あるいはそのご家族の方に、是非とも読んでほしい一冊です。
“うろんな客” は自閉スペクトラム症(ASD)の子供とその家族の成長物語である。
絵本「うろんな客」の英語原文のタイトル名は、”The Doubtful Guest” です。物語のあらすじに則して意訳すると、”行動が予測不可能な訪問者”と言ったところでしょうか。
● あらすじ
この作品のあらすじは次のとおりです。
とある家庭に見たこともない奇妙な生物(絵本表紙に描かれた”マフラーをしてスニーカーを履いたペンギンのような動物”)が入り込み、食事の輪に加わったり、物を壊したり、家の中を歩き回ったり、人のものを盗んだり、様々ないたずらをしたり、わけのわからない行動を繰り返しつつも、17年以上もその家に居つくという物語です。
引用元 うろんな客の wikipedia 該当部分を参考に加筆
● アリソン・ビジョップ(ゴーリーがこの作品を捧げた相手)の解釈
さて、この作品は冒頭に「アリソン・ビショップに」とありますが、これはゴーリーの友人であるアメリカ人女性作家のアリソンに捧げた作品とされています。
アリソンは、このうろんな客を「全ての子供の比喩にほかならない」と述べています。確かに、子供の無邪気さや斬新さは大人の理解を遥かに超えた奇想天外なものであることがありますよね。
要するに、この作品は無邪気な子供の「自由闊達で、純粋で、奇抜な言動」をさらにデフォルメしたものだと解釈すれば十分に納得できます。
● 発達障害者家族としての私の解釈
ところで、私は2年前にこの作品を初めて読みました。その時の率直な印象は「この絵本の主人公”うろんな客”の行動が発達障害(知的障害グレーゾーンも含む)の我が子(ASD+ADHD)とよく似ているな〜」というものでした。ちなみに、このうろんな客は言葉を発することはありません。
さらに、自由奔放で身勝手でいたずら好きな”うろんな客”と17年も一緒に居る住人は戸惑いながらも「すべてを受容するしかすべがない」という態度もまた我が家とよく似ています。
まるで同じ家族のような親近感を覚えました。というより、このうろんな客を取り巻く住人は我が家以上に穏やかで寛容的でした。
作者のゴーリーは意図して発達障害児を比喩的に表現したものではないと思いますが、発達障害者家族の私から見ると、この作品のストーリーがまるで自分の家族のパラレルワールドのように感じました。
そして、この作品を読み終わってしばらく時間が経った時、私はどういうわけか「自分がとても癒されたような気持ち」になっていることに気づきました。
なぜ、私は ”うろんな客” に癒されるのか?
この作品と出会ったのが2年前です。それ以降、発達障害の息子(ASD+ADHD)とぶつかることも多々ありました。また、息子に対する教育方針や個別の問題対応についても、妻(うつ)や娘(ASD)とうまく協調できないこともありました。
そんな時、私はこの絵本を開いて読み返すようになりました。そうすると、なぜか怒りはおさまり心が穏やかになりました。
この作品によって、なぜ私は癒されるのか?
その鍵はこの物語の場面設定にあると思います。この絵本の最後のページのセンテンスを次のとおり引用して、日本語に翻訳してみました。
英語のニュアンスとしては、「俺はどこにも行かないよ!この家にずっと居座ってやるからな!」という感じです。
It came seventeen years ago ~ and to this day.
引用元: The Doubtful Guest エドワード・ゴーリー=作 香月融=日本語訳
あいつが我が家にやってきてから今日でもう17年だ。
It has shown no intention of going away.
今だに、やつはこの家から出て行く気が全くない。
《脚注》 米国では「17〜18歳で高校を卒業すれば、親から離れて自活することが当たり前」という価値観です。18歳を過ぎても親と同居していると、ちょっと軽蔑されるくらいの風潮があります(私信)。
私は、息子が1歳10ヶ月になってもほとんど言葉を発しなかった時に、「この子はもしかして発達障害かも?」と不安を覚えました。
そして、息子は18歳になった今も、不登校で高卒の目処は立っておらず、進学や就労への意識も皆無です。これから先もずっとパラサイトとして親のスネをかじる気満々です。
私が息子の発達の遅れに気付いてから今日に至るまでちょうど17年が経過しています。息子の成長の時間経過と家族構成がこの絵本の場面設定と酷似しているのです。不思議な偶然ですね。
私とゴーリーとは生きた時代が半世紀ほど異なり、生活の場も日本と米国という地球上の正反対の位置です。そう考えると、ちょっと大袈裟かもしれませんが、この物語が時空を超えて「なにか人生における普遍的な真理」を言い当てているようにも感じます。
その他のゴーリー作品
今回はゴーリー作品の中でもちょっと異質な逸品を紹介しましたが、それ以外の絵本作品も文学として絵画芸術してとてもおもしろいです。
ただ、冒頭でも申しましたとおり、彼の作品の中にはおぞましく残酷なものもありますので、怖いお話やホラー映画が苦手な人にはオススメしません。
ちなみに、中田敦彦さんが自身のYouTube「中田敦彦のYouTube大学」でエドワード・ゴーリーの絵本4作品(不幸な子供、ギャシュリークラムのちびっ子たち、おぞましい二人、ウェスト・ウィング)を絶賛して紹介していますので、よろしければご覧ください。現時点で、200万回以上もの再生回数を誇る人気動画です。
YouTube 「【エドワード・ゴーリー】中田敦彦が絶賛する ”怖くて美しい大人の絵本”」
参考情報
● 絵本「うろんな客」エドワード・ゴーリー=作・絵/柴田元幸=訳
● YouTube 「【エドワード・ゴーリー】中田敦彦が絶賛する ”怖くて美しい大人の絵本”」中田敦彦=配信
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以上
2022年7月11日 発信・2023年11月9日 更新
マメタ父さん