はじめに
本投稿では、ショートショート 第28作 「創作詩 ”神隠し” 」を発表します。
遠い昔の子供時代に残した後悔あるいは罪悪感のような念が、大人になってから突如として実生活に立ち現れるなんてことはありませんか?
それなりに頑張って、仕事を持ち、結婚をして、子供ができ、やっと到達した幸せの絶頂期にふと感じる不安と孤独は子供のころの体験に起因していることがあります。
今回は、2022年1月15日に投稿した掌編小説「豆を頬張る少女」の一場面から、風景描写など一部を改変して詩の文体に紡ぎました。
《創作ショートショートのテーマ》
辛い毎日から逃れるために、思考と感情のバランス調整の一環として詩や掌編小説(ショートショート)の創作を始めました。
「発達障害児の世界」と「健常の大人の世界」とが不連続に交錯融い合する「奇妙で切ない不条理の世界」が主題です。具体的には、発達障害者・精神障害者・生きづらさを感じている人々・世の中の偏見や差別に苦しんでいる人々が登場する物語です。
携帯電話の画面で詩をご覧の方は、携帯電話を横向きにしていただくと詩の各文が改行しませんので、より読みやすくなります。
できましたら、パソコンの画面でご覧ください。各連および各行のレイアウトの美しさを味わうことができます。
本編:神隠し
俺たちが小学生だったころ、この海浜公園でよく遊んだものだ。
堤防がすごく綺麗になったね、
でもいろいろあったよね、そういえば、
同級生に英子っていう女の子、いたよな?
ここで遊んでいたときに拐われちゃった子だよ。
憶えてる? ナッツ嬢、神隠しの!
あの子は成績トップで、
飛び切りの美人だったから、
みんなから楊貴妃と呼ばれていたよな、
でも、あいつは誰とも遊ぼうとしなかった。
いつも一人ぼっちだったよね。
家が貿易商の大金持ちでさ、
巾着袋に入ったピーナッツを持って、
この公園にもよく来てたよね、ひとりで、
いつも鉄棒の背後にあるベンチにポツンと座って、
ピーナッツを口いっぱいに頬張っていた。
「ちょっとちょうだい」とお願いしても、
俺たちには決して恵んでくれなかったよね、
なんの禍か、あの子、突如いなくなっちゃった。
その夜、大騒ぎになったよね、警察も来たりして、
でも、見つからなかった。
あれから40年、
なんの因果か、応報か?
うちの娘、あの子と性格がそっくりなんだ。
あの夏の夕暮れ、最後の日、公園からの帰り際、
あの子に声をかけていれば・・・
釣竿の針にイワシを吊るしたまま、キャッキャと少年達が行き過ぎる。
おわり
参考情報
●【まとめ記事】その他のショートショート(詩または掌編小説)
●【まとめ記事】マメタ家の紹介と近況報告
●【投稿記事】創作怪談「豆を頬張る少女」(神社の裏で少女になにが?)2022年1月15日 投稿
以上
2024年10月19日
香月 融