* 記事ボリュームは7,375文字です。お時間がない方は、冒頭のチャプターの「はじめに」だけをお読みください。
はじめに
発達障害児(特にADHD)のお子様がいらっしゃる親御さんにおかれましては、ショッピングセンター・公園・レジャー施設・ホテル・病院・市役所などへ車で行かれたとき、「障害者スペースに駐車したいな・・・」と思われたことはありませんか?
特に、発達障害の子供が幼少で且つ車の中で癇癪を起こしているとき(情緒不安な状態)、入り口近くに駐車できれば車から降りた後に駐車場内で子供が交通事故に遭う危険性(不注意・衝動性・多動性などのADHDや社会性や協調性の欠如などASDにともなう行動特性のため)を回避することができます。
それでは、発達障害児の保護者は公共の障害者用スペースに駐車してもよいのでしょうか?
もちろん、答えはイエスです。ところが、実際はなかなか利用しにくいのが現状です。その理由は次のとおりです。
① 身体障害者優先の意識が高く、遠慮してしまう。
② 他人からマナー違反と思われないか、気になる。
本投稿記事では、ADHDのお子様がいらっしゃる親御さんが公共の駐車場で事故を回避する方法をご紹介します。
本記事の【結論・要約】は次のとおりです。
● 発達障害児の保護者は公共の障害者用スペースに駐車することができる。ところが、発達障害の特性は他人からは見た目でわかりにくいため、マナー違反だと誤解を受けやすい。
● 発達障害児(ADHDおよびASD)は、不注意、衝動性・多動性・独特のこだわり・協調性の欠如などの特性があるため、健常者と比べると駐車場で交通事故に遭うリスクがより高い。
● 発達障害者またはその保護者が障害者用スペースに駐車した際に、その車は障害者が使用していることを意思表示するための方法として車いすマークのステッカーを車体に貼り付けることができるが、絵柄が身体障害者のイメージアイコンなので心理的に躊躇する。そこで、車いすマークのステッカー貼り付けの代替案として「車のフロントガラスの内側にヘルプマークを貼り付けること」をオススメする。
● 各都道府県で実施しているパーキングパーミット制度を利用すれば、発達障害者およびその保護者が障害者用駐車スペースの利用証を取得できる可能性はゼロではないが、原則として、発達障害者は利用対象に含まれない。なお、身体障害者以外に精神障害者・知的障害者・難病患者・高齢者・妊産婦・傷病人は利用対象に含まれる。
● 発達障害者やその保護者が気兼ねすることなく障害者用スペースに駐車できるようになるには、発達障害者がパーキングパーミット制度の利用対象として容認されることが望ましい。
● 発達障害児の駐車場での交通事故を防止する策として、駐車場内に1m以上の幅の歩道を設置することが有効である。
そもそも、なぜ発達障害児は交通事故に遭いやすいのか?
● ADHDの場合
典型的なADHD特性として、不注意、衝動性、多動性があります。実際、ADHD児は駐車場内で周りをよく確認せずに飛び出したり、躓いて転んだり、あっちこっちと走り回ったりすることがあります。特に、幼少期の子供は傾向が強いと言われています。
また、健常者と比べると、発達障害者は移動中の車のウィンカーやブレーキライトに気付く力が不足しています。中には、車のクラクションやヘッドライトの点燈に驚いて、突発的に走り出したり、しゃがんでしまったりすることもあります。
● ASDの場合
ASD特性として、独特のこだわりや協調性の乏しさがあります。実際、ASD児は、親や兄弟が降車することを待たずに先に行ったり、入り口とは反対方向に勝手に行ったりすることがあります。
また、区画を示す白線や車止めブロックの上を歩きたがるクセがある子供もいます。あるいは、気に入った車種やプレートナンバーを見つけると、その場で立ち往生したりするケースも稀にあります。
【私の体験】
私の息子はADHDとASDの両方の特性があります。特に幼少のころは、駐車場を歩行するときやみくもに左右前後に動き回るので、しっかりと息子の手を握っていました。
特に、息子が4歳のときは、駐車場に並んでいる車の種類を言い当てることがルーティンになっていて、まともにまっすぐ歩いてくれないことがありました。ちょうどその時期の息子は玩具のミニカーを収集して楽しんでいましたので(200種くらいの車名を暗記)、駐車場は遊び場のような感覚だったのかもしれません。
実際、息子は駐車場では何度か車にひかれそうになりました。また、歩いている最中、車のサイドミラーに気が付かずに頭をぶつけることも度々ありました。
発達障害の特性は他人から見えにくい。
● 発達障害者家族が障害者用スペースに駐車したときのトラブル事例
軽度の知的障害と軽度~中度の自閉スペクトラム症だと診断されたもっくんと妹のかりんちゃんの日常生活をSNSで発信しているお母さんへの取材記事がヤフーニュースに掲載されました。
その中から、「健常者において発達障害の理解がまだまだ不十分であること」および「発達障害の特性が他人にはなかなか見えにくいこと」を如実に示す事例として、発達障害者家族が障害者用スペースに駐車したときのトラブルを紹介します。
「もっくんの特性の1つに、目に入ってきたものに対し、周りを確認せず行動してしまう“衝動性が強い”というところがあります。ただ、そういった行動は何も知らない人にとっては、『元気な男の子』といった印象を持たれるだけなんです。
先日、もっくんの衝動性の強さが落ち着くまで他の車に迷惑がかからないように、障害者用の駐車場に停めて降りたんです。すると『なんでそこ、止めるんや!』っておじさんに怒られて。『この子は発達障害で、少しお借りしています。』って言っても、『一応、自閉症でも歩けるやろ』って感じで。元気な男の子にしか見えないからって。」
引用元:ヤフーニュース記事「”なんで普通じゃないんだろう…”発達障害と診断された息子 明るく動画配信する母の思い」2023年3月12日配信
もっくんのお母さんはつらく悔しい思いをされたことと察します。発達障害を正しく理解していない人や偏見をもった人への対応はなかなか難しく、対応はケースバイケースで明確な正解がないのが現実です。こんなとき、車に障害者が
【私の体験】
子供が小学生だったころの話ですが、家族4人でショッピングセンターに行ったとき、車中で息子(ADHD+ASD)が癇癪を起こして暴言を吐き始めたので、やむなく入り口に近い障害者スペースに駐車しました。
そして、ちょうど家族みんなが降車してドアを閉めたくらいのとき、たまたま近くを通りかかった年輩のご夫婦らしき二人組の男性の方が「うわ、あの人、障害者スぺ―スに停めてるやん、あかんねんで、マナー違反やん・・・」と同伴者につぶやく声がはっきりと聞こえてきました。
私たちはあえて反論することなく、足早にその場を立ち去りました。私はちょっと嫌な気分になりましたが、健常者からすれば私たちは障害があるように見えなかったことも事実です。
● 無理解の健常者が放つ心ない言葉が発達障害児に与える影響
あなたが発達障害者家族だと仮定して、障害者用スペースに駐車したことを他人から咎められたときはどうしますか? 上述のもっくんのお母さんのように子供が発達障害である旨を伝えて障害者スペース利用の理解を求める方もいらっしゃるでしょう。
ここから先は私の個人的な意見ですが、子供が幼少で発達障害の意味を十分に理解できていない場合や逆に10歳以上で発達障害の特性を理解して受容できている場合は問題ないと思います。
ところが、子供が発達障害であることにコンプレックスを感じていたり、障害特性を理解しているもののまだ受容できていないような状況のときは、子供の前で他人と発達障害うんぬんで口論することはできれば避けた方がよいかもしれません。
なぜなら、多かれ少なかれ子供が傷つく可能性があるからです。特にいきなりけんか腰で非難してきたり、ネチネチと嫌味を言うような人とはできるだけ関わらない方がよいでしょうね。
一方、「障害者の方ですか?」あるいは「ここは障害者用の駐車スペースですよ」と平常心でソフトに訊いてくるような紳士的な方には、発達障害である旨や障害者用スペースに駐車せざるを得なかった理由を説明することは問題ないと思います。
発達障害者家族が気兼ねなく障害者スペースに駐車する方法
● 障害者が利用する車に表示することができる障害者マーク:
障害者が乗車または運転する車に表示することができる障害者マークは、下記のとおり車いすマーク・身体障がい者マーク・聴覚障がい者マークの3つですが、そのうち発達障害者が利用できるマークは「車いすマーク」です。
ちなみに、車に表示可能な車いすマークのステッカーは大手物販ECサイト、カー用品店、ホームセンター、公益財団法人・日本障害者リハビリテーション協会で購入(有料)できます。
① 車いすマーク:
障害者が利用できる建物、施設であることを明確に表すための世界共通のシンボルマークです。マークの使用については国際リハビリテーション協会の「使用指針」により定められています。この駐車場などで障害者の利用に配慮を求めることができます。
なお、このマークは「すべての障害者を対象」としたものです。特に車椅子を利用する障害者を限定し、使用されるものではありません。
このマークが掲示されている駐車スペースを利用する際、車に同マークのステッカーを貼ることにより利用者が障害者である旨を意思表示できます。
② 身体障がい者マーク:
肢体不自由であることを理由に免許に条件を付されている方が運転する車に表示するマークで、マークの表示については、努力義務となっています。
危険防止のためやむを得ない場合を除き、このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は、道路交通法の規定により罰せられます。
③ 聴覚障害者マーク:
聴覚障害であることを理由に免許に条件を付されている方が運転する車に表示するマークで、マークの表示については、義務となっています。
危険防止のためやむを得ない場合を除き、このマークを付けた車に幅寄せや割り込みを行った運転者は、道路交通法の規定により罰せられます。
● 車いすマークの利用
上述のとおり車いすマークはすべての障害者が利用することができます。それゆえ、発達障害者またはその保護者が障害者用スペースに駐車した際に、その車が障害者が使用していることを意思表示するために車いすマークのステッカーを貼り付けることができます。
ところが、このマークには車いすの絵柄が印刷されているため、身体障害者の方だけが利用できるものとイメージされている方が多いのではないでしょうか? それゆえ、発達障害者の家族である私としては、車いすマークのステッカーの利用にとても抵抗感があります。
実際、私自身は車いすステッカーを購入したものの、これまで一度も使ったことはありません。
● 車いすマークのステッカーの入手方法
車に表示可能な「車いすマークのステッカー」は、大手物販ECサイト、カー用品店、ホームセンター、公益財団法人・日本障害者リハビリテーション協会で購入(有料)できます。
なお、業者が車いすマークを表示した障害者用の駐車スペースの設置をする場合、公益財団法人・日本障害者リハビリテーション協会への申請が必要です。
● 紛らわしい車いすマーク表示の駐車場の事例
上述のとおり、車いすマーク表示の駐車場は原則として全ての障害者(身体障害のみならず知的障害・精神障害・発達障害を含む)が利用できます。ところが、車いすマーク表示の駐車場の中には、わざわざ「身障者用駐車場」と文字標識を掲げている駐車場が稀にあります。
典型的な事例(大分県)を YouTube 動画で見つけましたので、次のとおり紹介します。実際、動画の中で高齢者や妊産婦の方がこの障害者マーク表示の駐車スペースを利用しているシーンが出てきますが、身障者でないという理由で車の移動を余儀なくされています。
このような場合、発達障害者は駐車してよいかの判断が難しいのですが、文字通り解釈すれば駐車できないということになります。個人的には、このような紛らわしい表示の駐車場はできるだけ改善していくべきだと思います。
● 国土交通省が推進する「パーキング・パーミット制度」の利用
各都道府県で実施しているパーキングパーミット制度(地域によって制度の名称は異なる:大阪府の例 障害者等用駐車区画利用証制度)を利用すれば、発達障害者いおよびその保護者が障害者用駐車スペースの利用証を取得できる可能性はゼロではないが、原則として発達障害者は利用対象に含まれません。
ちなみに、本制度の利用対象者は次のとおりですが、基本的な考え方として「歩行が困難な方」が利用証交付の条件になります。また、それを証明するための必要書類として医師の診断書または障害者手帳などの提示が求められます。
・身体障害者
・精神障害者
・知的障害者
・難病患者
・高齢者
・妊産婦
・傷病人
● ヘルプマークの利用
ヘルプマークとは、義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、妊娠初期の方、精神障害の方、発達障害の方、感覚過敏の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマークです。
本来の主旨とはずれているかもしれませんが、障害者用スペースに駐車した際に、その車が障害者が乗車していることを意思表示するため、車のフロントガラスの内側にサンバイザーに挟むように固定してヘルプマークを表示しています(下記画像を参照)。
● ヘルプマークの入手方法
ヘルプマークの配布場所は、次のとおり複数の各自治体関連部署で配布されています。
・都道府県・市区町村の役場
・保健所
・福祉関連施設
・障害者支援センター
・地下鉄各駅(東京都)
なお、療育手帳や障害者手帳の提示は必須ではありませんが、自治体によっては利用目的を問われることがあります。
● 企業が発行する駐車許可証
家族旅行などでホテルに宿泊する際、事前にホテルに発達障害の旨を相談すれば、障害者用スペースまたはホテルの入り口に最も近い駐車スペースを確保してくれることがあります。
私の経験ですと、車で駐車場に入る時に名前を申し出ると係員の方から「指定の駐車位置番号が記載された駐車許可証」を渡されます。それを車のフロントガラスの内側に車外から見えるように置くようにと指示されました。
管理人が常駐している民間駐車場で、このような取り組みが広まると非常によいと思います。
駐車場内での子供の交通事故を防止する方法
● 服装
ドライバーに気付いてもらいやすいように、なるべく目立つカラフルで明るい服装を心掛けるとよいでしょう。特に、立体駐車場は薄暗いため、白、黄色、オレンジ、赤を基調とした色合いがよいと思います。逆に、黒、紺、茶色はおススメしません。
● 子供と手を繋ぐ。
子供が幼少(6歳未満)の場合は、手を繋ぐことは必須です。その力加減がなかなか難しいのですが、子供が痛がらない程度まで強めに握る方がよいと思います。
● 駐車場内に敷かれた歩行導線を厳守する。
一部の駐車場には、下記写真のとおり歩行導線(緑色の帯)が敷かれています。多くの場合、その幅は60cm以下で親子が並んで歩くには狭過ぎるのですが、多少はみ出してもよいのでなるべくその線上を歩いてください。当然のことながら、車との接触する可能性がある側を大人が歩いて子供を守ってください。
ただ、この歩行導線を意識して運転しているドライバーはほとんどいないと思います。それゆえ、歩道導線を歩いていても交通事故に遭う可能性は十分にありますが、事故に遭ったときの過失割合で有利になる可能性が高いです。
● 駐車場内に敷かれた歩行導線がない場合、歩行者は右側通行する。
発達障害児とその保護者は直進方向に沿って右側通行すると事故の可能性は少し軽減されます。
なぜなら、ドライバーは公道での交通ルールに慣れているので直感的にあるいは無意識に歩行者を発見しやすいため、事故を防止しやすくなります。
抜本的な解決策とは?
● パーキングパーミット制度の利用対象に発達障害者を含めてほしい!
上述のとおり、発達障害者およびその家族が車を使用するときに、「障害があることを意思表示するすべ」が十分にあるとは言えません。
障害者用の駐車スペースの利用の際に周辺の人に気兼ねすることなく利用できるような仕組みとして、パーキングパーミット制度の利用対象に発達障害者を含めていただくことが必要だと思います。
● 駐車場内に1m以上の幅の歩道を作ってほしい!
発達障害者家族が駐車場内を歩いて入り口に到達するまでに交通事故に遭うリスクを軽減する方法として、駐車場に1m以上の幅の歩道の設置を提案します。
もちろん、駐車場の所有者または経営者側には余分な経費が発生しますので、実現はなかなか難しいことだと思います。
上述のとおり、現時点でも50cmくらいの歩道の導線を敷いている駐車場もあります。子供と手を繋いで歩くには道幅が狭すぎてはみ出してしまいます。5歳くらいの子供と大人が並んで歩くには最低でも1メートルくらいの道幅が必須だと思います。
参考情報
●【投稿記事】【缶バッジ】発達障害を意思表示する方法:西出光さん(ADHD)の提言を読み解く!
●【まとめ記事】発達障害者の支援制度(手帳・特児・年金)
●【まとめ記事】発達障害者の学歴とキャリアの成功事例
●【まとめ記事】 発達障害者(知的障害を含む)のご家族の学歴とキャリアの成功事例
以上
2023年3月16日
マメタ父さん